研究課題/領域番号 |
24510252
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米澤 千夏 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60404844)
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キーワード | 東日本大震災 / 合成開口レーダ / 人工衛星 / 地理情報システム / 画像分類 / 被災農地 / 復興農学 / 変化抽出 |
研究概要 |
2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波で被害をうけた農地を観測した人工衛星リモートセンシングデータの解析をおこない、以下の結果を得た。 1)作付状況の高精度推定手法の開発 高分解能衛星データと圃場ポリゴンデータを用いて、津波被害をうけた圃場をイネ・ダイズ・雑草に分類する手法を開発した。衛星データは、2011年8月13日に取得された高分解能光学センサ搭載衛星IKONOSの画像を使用した。イネとダイズでは、圃場内のパンクロマティック画像のDN値の標準偏差に大きな差があることが確認された。この標準偏差をマルチスペクトル画像に加えて教師付き分類することで、イネとダイズの間で誤分類が減少した。 2)震災直後からの湛水状況の時系列変化の推定 人工衛星搭載合成開口レーダによる観測画像を用いて、津波被災農地の湛水期間の推移の推定を試みた。ALOS PALSAR(Lバンド)、TerraSAR-X(X-バンド)、RADARSAT-2(C-バンド)によって取得された画像を解析した。TerraSAR-Xデータの解析では、地震直後の3月11日から9月4日までに取得されたデータを用いた。圃場ポリゴンデータを重ね合わせ、各圃場ごとに後方散乱係数の平均値を計算した。その結果、3月11日には津波による浸水が報告されている地域では、浸水がなかった地域よりも後方散乱係数が小さくなった。周辺よりも後方散乱係数が小さい圃場が占める圃場の数と面積は時間とともに小さくなり、震災から半年後の9月4日には浸水地域と非浸水地域の違いはみられなくなった。同じ日に観測されたRADARSAT-2とTerraSAR-X、ALOS PALSARとTerraSAR-Xを比較し、観測波長の違いを検討したところ、RADARSAT-2とTerraSAR-XのほうがALOS PALSARとTerraSAR-Xよりも相関が大きくなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた被災直後の圃場単位での被害程度の判別をおこなった。TerraSAR-Xデータの解析により、被災後3か月を経過した時期においても後方散乱係数が小さく、浸水していたことが推定される圃場が集中している地域を抽出した。後方散乱係数の大きさは入射角の影響をうけていたが、同一の入射角・観測方向で取得したデータを湛水期間の推定に用いた。 また、農地の状況の空間的変遷を抽出するため、高分解能光学センサデータを用いた作付状況の高精度推定手法の開発をおこなった。これによって、植生のない圃場、水稲が作付されている圃場、ダイズが作付されている圃場を従来よりも精度よく推定することが可能になった。 2013年の作付状況の抽出については、航空機搭載映像レーダによる観測データが得られており、データ利用が可能になった2014年度に解析を行う予定である。なお、航空機観測と準同期した現地調査をおこなっている。 また、宇宙航空研究開発機構による航空機搭載L-バンド観測センサの研究公募(Pi-SAR-L2研究公募)において本研究に関連する研究課題「東日本大震災津波被災農地における水稲生育段階抽出手法の開発と復旧状況のモニタリング」が採択された。 結果は4つの国際学会、3つの国内学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は以下を実施する。結果は学会のほか、申請者の所属機関に新たに設置された東北復興農学センターの活動等を通じて公表することを予定している。 ◇湛水期間と残存塩分量の関係についての検討:2013年度に得られた震災直後からの湛水期間の圃場単位での推定結果と、2013年5月におこなわれた土壌調査の結果を比較し、湛水期間と残存塩分量の関係について明らかにする。 ◇作付状況の経年変化の抽出:合成開口レーダ搭載衛星COSMO-SkyMedで2011年、2012年、2013年に対象地域を観測したデータを入手しており、作付状況の経年変化の抽出をおこなう。また、2014年度の水稲の生育時期に光学センサASTER/VNIRによる観測がおこなわれればデータの解析をおこなう。2012年の水稲の生育時期に連続して観測したTerraSAR-Xデータの利用が可能になったことから、作付状況について調べる。2013年の水稲の生育時期に情報通信研究機構による映像レーダPi-SAR2が対象地域上空を飛行し、観測をおこなった。2013年度末より観測データが利用できるようになったことから作付および水稲の生育状況抽出手法の開発と2013年の状況の評価をおこなう。また、宇宙航空研究開発機構による航空機搭載L-バンド観測センサの研究公募によって提供されるデータも活用していく。さらに、ALOS-2(だいち2号)が2014年5月24日に打ち上げの予定である。申請者は研究公募に研究課題が採択されており、本研究に観測データを活用する。 ◇震災直後の湛水期間と作付状況の関係の解析:湛水期間の推定結果と、各年の作付状況の関係を圃場単位で集計・解析し、定量的に明示する。また営農環境の変化との関連についても考察をおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
リモートセンシング・GISソフトウェア維持管理費を予定していたが、2013年度においては他の予算をわりあてることができ、本予算からの支出の必要がなかった。国内学会および国際学会で発表をおこなったが、国際学会3回分(うち2回は国内開催)の旅費は所属機関の「杜の都ジャンプアップ事業for 2013」のスキルアップ補助金に応募・採択されたため、本予算からの支出の必要がなかった。衛星データは、DLR(ドイツ航空宇宙局)によるTerraSAR-X研究公募に応募・採択されたことによって提供されたデータを活用したため、支出の必要がなかった。 リモートセンシングソフトウェアおよびGISソフトウェアは研究の実施において必須である。研究を効率的にすすめるにはコマーシャル・ソフトウェアを使用することになる。すでに保有しているソフトウェアを活用するが、利用にあたってはバージョンアップへの対応やFAQを活用するための維持管理費用に使用する。また、解析に用いるコンピュータや現地調査用の情報機器は年々性能があがっており、またデータ量も年々増大していることからこれらデータ解析用および現地調査用の機器の購入をおこなう。成果の公表のために学会発表および現地調査の実施にあたっても旅費が生じる。また、現地調査の補助、データ整備にあたってアルバイトへの謝金が生じる。
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