研究課題/領域番号 |
24510252
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米澤 千夏 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60404844)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 経年変化 / 合成開口レーダ / 人工衛星 / 航空機 / 復興農学 / フルポーラリメトリックSAR / 地理情報システム |
研究実績の概要 |
1)作付状況の経年変化の推定 津波被災農地において、Xバンド合成開口レーダ搭載衛星であるCosmo-SkyMedのデータを用いて、湛水期の圃場の後方散乱係数の分布から農地の復旧状況の抽出を試みた。2011年においては、仙台市沿岸部で後方散乱係数が小さい場所が確認できた。後方散乱係数の分布は2011年6月5日に撮像されたXバンド合成開口レーダ搭載衛星TerraSAR-Xのデータの解析結果ともよく一致していた。2012年には、後方散乱係数が相対的に小さい圃場が津波浸水範囲からおよそ1km程度内側まで確認できた。2013年には後方散乱係数が相対的に小さい圃場の分布は2012年よりも沿岸部側に広がっていることが確認できた。ただし水が張っている圃場と張っていない圃場のちがいは判別可能であるが2012年ほど明瞭ではない。その理由としては観測日が2012年よりも1週間遅く、その間に稲の生長がすすんだことが考えられた。水稲の作付のために湛水している圃場と、未整備で浸水している圃場の判別には現地調査等による情報が必要になるものの、全天候型センサである合成開口レーダのデータは水田の復旧状況の分布を地図上で示すうえで有効である。 2)平成26年に観測された合成開口レーダ観測データの解析 2014年9月にALOS-2(だいち2号)に搭載されたLバンド合成開口レーダPALSAR-2、および航空機搭載Lバンド合成開口レーダであるPi-SAR-L2で対象地域の全偏波観測(フルポーラリメトリックSAR)によるデータの解析をおこなった。散乱成分(表面散乱・体積散乱・2回散乱)への分解をおこなった結果、PALSAR-2、Pi-SAR-L2とも水稲作付圃場では他の圃場よりも2回散乱成分が大きくなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
作付状況の空間的な分布の平成23年から25年までの経年変化は抽出できた。しかし平成26年における空間分布の推定をおこなうことができていない。平成26年5月にはPALSAR-2を搭載したALOS-2が打ち上げられたが、データの入手が可能になったのは11月下旬からであった。また水稲の作付状況が湛水の有無から容易に判別できる田植期には観測がおこなわれていなかった。9月にはPALSAR-2のほかPi-SAR-L2による全偏波観測データが得られ、マイクロ波の散乱成分の抽出から作付状況の推定を試みたが、両者とも散乱成分への分解等の偏波解析が可能なデータが地図に重ね合わせられていない状態であることから圃場ポリゴンデータとの重ね合わせが難航した。また、観測データの入手が容易な衛星であるTerraSAR-XやASTERでは適切な時期の観測がおこなわれなかった。ただし、現地調査によって、実際の作付状況の観測はおこなっている。営農環境の変化については、農業再開経営体の設立の状況などについて宮城県から情報を得ている。 湛水期間と残存塩分量の関係についてははっきりとした結果を得られていない。震災直後の湛水期間と作付状況の関係についての検討をおこなっているが、明瞭な傾向がみいだされていない。 国際学会で1件、国内学会で1件発表をおこなった。また関連して国内での招待講演を1件おこなった。関連した成果を執筆した書籍が1冊発行された。
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今後の研究の推進方策 |
◇合成開口レーダによる全偏波観測データの解析 PALSAR-2およびPi-SAR-L2によって対象地域を観測したデータを解析し、作付状況の空間分布の推定をおこなう。航空機搭載Xバンド合成開口レーダであるPi-SAR2で平成26年8月に全偏波観測によって取得されたデータについても解析をおこなう。これらのデータは作物の生育期に取得されており、作付状況を抽出するためには散乱成分への分解などの全偏波画像の解析が有効となる。合成開口レーダの全偏波観測で得られるマイクロ波の地表面からの散乱は、作物の形状についての情報も含んでいる。水稲・大豆などの作付作物の判別手法の開発もあわせておこなう。LバンドとXバンドでは観測周波数の違いによってマイクロ波の散乱過程が異なることに留意する。 ◇平成26年、27年の作付状況の空間分布の推定 PALSAR-2およびPi-SAR-L2で得られた観測データの圃場ポリゴンデータへの重ね合わせにおいては、フリーソフトなどを活用した地理座標系への変換についての検討を引き続きおこない、作付状況の空間分布を推定する。 津波で被災した農地の復興はまだ途上にある。平成27年にPALSAR-2などの衛星で観測されたデータについても解析をおこない、復興状況の空間分布を推定する。高分解能光学センサのデータも活用する。リモートセンシングデータによる広域の作付状況把握に必要な現地調査もあわせて実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当事業では、ASTER衛星のほか、平成25年度打ち上げ予定のALOS-2衛星により観測されたデータに基づき分析を行う予定であった。しかし、ALOS-2衛星の打ち上げが平成26年度に遅れデータ提供が11月からとなったため、観測データ分析に使用する経費、データ分析の裏付けとなる実地調査に使用する経費が未使用となった。また、データ分析がまとまらないため、成果発表に使用する経費も未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費としてALOS-2の多偏波データ解析に対応した機器購入に20万円、データ保存媒体他消耗品に10万円、高分解能衛星データ購入費として64万円。旅費として成果発表(国際学会1回(IGARSS2015、イタリア)、国内学会1回)および現地調査に50万円。人件費としてデータ入力整理に40万円。その他として圃場ポリゴンデータ利用費に46万円、学会参加費に10万円、論文投稿費として10万円を予定する。
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