研究課題/領域番号 |
24510256
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
一柳 錦平 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (50371737)
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キーワード | 水安定同位体 / 水蒸気起源 / 台風 / 降水 |
研究概要 |
台風や豪雨によって多量の水蒸気が日本にもたらされるが,その水蒸気がどの海域から蒸発したのか(起源)を明らかにするため,水の相変化によって変化する降水の安定同位体比を利用して,同位体大循環モデルや色水解析の結果を検証する. そのため,既存の降水同位体比データを収集して,日本全域における過去の降水同位体比の空間分布と季節変動を明らかにした(田上ほか,2013).その結果,梅雨季には熱帯域からの水蒸気フラックスが大きく,日本全国で酸素安定同位体比の変動が小さかった.秋季にも台風によって同位体比の低い降水が特に西日本や沖縄にもたらされており,夏季と秋季には緯度効果(高緯度ほど降水同位体比が低くなる効果)が認められないことが初めて明らかになった. また,これまで研究代表者が観測を続けてきたインドネシアとパラオの降水同位体比を用いて,熱帯太平洋域における降水同位体の季節変動と水蒸気起源の変遷を明らかにした(Rusmawan et al., 2013).その結果,降水同位体比の季節変動はアジア-オーストラリアモンスーンによって,半年周期パターン,反モンスーンパターン,モンスーンパターンの3つに分類できることを示した.以上の研究成果によって,日本と熱帯太平洋域での同位体大循環モデルや色水解析の結果について検証することができた. さらに,2013年1月から12月まで日本全国での降水同位体比の一斉集中観測を行い,約60地点分,約2000個の降水サンプルを収集しており,約30%の分析が終了している.他のプロジェクト研究や個人研究による降水同位体比データも収集し,最終的には120地点以上の月データを収集することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究成果によって,日本,インドネシア,パラオにおける降水同位体比の観測による同位体循環モデルの検証が終了し,色水解析による水蒸気の起源解析を可能にすることができた.その他にも,同位体局地気象モデルを用いて,2000年から2010年まで解像度20㎞で日本全域における降水の同位体比と水蒸気の起源解析を行い,空間解像度の違うデータセットの作成をほとんど終了している. また,2013年1月から12月まで日本全国での降水同位体比の一斉集中観測を行い,約60地点分,約2000個の降水サンプルを収集しており,約30%の分析が終了している.他のプロジェクト研究や個人研究による降水同位体比データも収集し,最終的には120地点以上の月データを収集することができた.これだけ詳細な降水同位体の観測は日本でも初めてであり,世界的にも例のない研究成果である. このように,モデルの出力データの準備は順調で,さらに降水同位体の観測地点は日本全国に大幅に拡大しており,当初の計画以上の成果が出ている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果によって,日本と熱帯太平洋域における降水同位体比の観測によって,同位体大循環モデルと色水解析の結果について検証することができた.そこで来年度は,これまで日本に襲来した複数の台風について水蒸気の起源解析を行い,それらを統計解析して各海域(とくに,インド洋や南シナ海など熱帯海域と,日本近海の太平洋や東シナ海について)からの水蒸気フラックスの寄与を明らかにすることを目指す.また,これまでに台風の降水と水蒸気の同位体比の時系列観測を行っている2006年の台風13号など,観測データと同位体局地循環モデルの結果を比較し,水蒸気の起源解析を行いたい. その他,2013年の日本全国における降水同位体比の一斉集中観測によって,約60地点分,約2000個のサンプルを収集することに成功した.現時点では酸素,水素安定同位体比の分析は約30%だが,来年度中には全部の分析を終了し,日本全国の降水同位体比の空間分布や季節変動を明らかにする予定である.このデータセットを解析することによって,梅雨や台風の影響がどの地域まで現れているかについて明らかにしたい.
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