研究概要 |
分裂を止めた細胞の生存期間によって表される経時寿命はテロメア短縮などのメカニズムが提唱されている複製寿命に比べ、まだ不明な点が多く、老化時に細胞内で何が起こっているのかはまだほとんどわかっていない。経時老化の研究を難しくしている原因の一つは、細胞の老化を知るための有用なマーカーの欠如である。細胞が分裂しない経時老化ではテロメア長などは指標とはならない。経時老化マーカーが開発できれば、現在のようにいちいち培地に蒔いてコロニー数をカウントするという時間と労力のかかる作業がなくなり、老化研究を飛躍的に加速できると期待される。そこで本研究では、ポストゲノム研究に適したモデル生物である分裂酵母を用い、約5,000種類の全タンパク質について、経時老化に伴う発現レベルの変化を調べ上げ、老化の度合いを示すマーカータンパク質を開発することを目指した。 初年度は経時老化において発現レベルが変化するタンパク質をスクリーニングするための条件検討をおこない、スクリーニング系を確立した。本研究者がすでに構築していた約5,000株からなる分裂酵母のタグ融合遺伝子発現株のセットを個々に飽和状態になるまで培養して分裂を停止させた後、そのまま培養を続け、経時老化させた。一定期間ごとに細胞を回収し、全細胞抽出液を調製した後、プロテインアレイ(リバースアレイ)を作製し、抗タグ抗体により各タンパク質の発現レベルを測定した。飽和直後の比較的若い細胞との間でデータを比較することにより、5,000種類のタンパク質全てについて経時老化に伴うレベルの変動を測定した。その結果、生存率が1割以下に落ちる時点で、発現レベルが顕著に変化するものとして、増加・減少それぞれについて50種類以上のタンパク質を同定した。
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