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2012 年度 実施状況報告書

ヒトBACを用いた自閉症スペクトラム患者共通遺伝的リスク因子の解析

研究課題

研究課題/領域番号 24510280
研究種目

基盤研究(C)

研究機関独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

研究代表者

井上 由紀子  独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第六部, 流動研究員 (30611777)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード自閉症スペクトラム / SNP / BACトランスジェニックマウス
研究概要

近年行われたゲノムワイド関連解析の結果、自閉症スペクトラム(ASD)患者群で最も広く共有される6つの一塩基多型(SNP)が、染色体5p14.1に隣接するCDH10/CDH9遺伝子間の蛋白非コード領域に位置することが報告されている。本研究ではヒトゲノム配列を有する細菌人工染色体(BAC)を用いたトランスジェニックマウス作出技術を駆使し、このゲノム領域に中枢神経系における遺伝子転写調節活性が有るか否かを検証することを目的としている。6つのASDリスクSNPを全て含むヒトBAC(#1)に、大腸菌株内でのトランスポゾン転移を利用して「最小プロモーター+LacZレポーター遺伝子」カセットを挿入し、このBACを有するトランスジェニックマウスを作製してエンハンサートラップを試みたところ、発達期の大脳皮質および線条体において強いLacZレポーター遺伝子発現が観察され、ASD患者において臨床的に機能障害が認められる脳領域において作用するエンハンサーの存在が示唆された。当該年度においては、BAC(#1)と隣接し、かつ一部重複するが6つのSNPは含まない、新たなBAC(#2)、BAC(#3)を用意して、前述のエンハンサートラップ法を行った。その結果、BAC(#2)とBAC(#3)には脳におけるエンハンサー活性は無く、BAC(#1)のみに含まれるASD関連SNPに対応するゲノム領域こそが大脳皮質や線条体における転写調節活性を担うことが明らかになった。また、このヒトゲノム領域の塩基配列をチンパンジー、マカクサル、マウス、ラットと比較すると、霊長類では高度保存されているものの、げっ歯類での保存性は低く、ヒトBACにおいて検出された脳エンハンサー活性は霊長類特異的なものであると予想されるので、現在、ヒトBAC(#1)に対応するマウスBACを用いたエンハンサートラップを行っており、その仮説を検証中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究目的を達成するための具体的な実験方法として挙げた、ヒトゲノム配列を有するBAC用いたトランスジェニックマウス作出技術を駆使する方針については、前項に記したように順調に進展している。
当初の仮説では、ASD患者共通リスクSNPを含むゲノム領域がカドヘリン10(CDH10)遺伝子発現調節に関わることを想定しているが、患者死後脳サンプルを用いた他研究グループの解析結果から、これについては否定的な見解も報告されており、現時点では本研究においてもSNPとCDH10発現との関わりは見出せていないので、この点に関してはは目的達成がやや遅れていると言える。
しかしながら全体としては、今まで解析が手薄であったASD患者に広く共通する発症リスクSNPについて、それらを含むゲノム領域において初めて脳エンハンサー活性を見出している点で、おおむね順調に研究が進捗していると考えている。

今後の研究の推進方策

研究実績概要で一部記したように、ヒトBAC(#1)に対応するマウスBACを用いたエンハンサートラップを行い、大脳皮質と線条体における転写調節活性が霊長類特異的であるか否かについて解析を進める。
また、当該年度開始時において、研究対象ゲノム領域である染色体5p14.1自閉症関連SNP領域から、新規のlong non-coding RNA(MSNP1AS; Moesin pseudogene1 antisense)が転写されることが報告された。このアンチセンスRNAは、染色体XのMoesin遺伝子から転写されるRNAと結合して、シナプス形成に関与する分子であるMoesinタンパクの量を変化させることによってASDの病因に寄与することが推測されている。本研究で見出した大脳皮質と線条体におけるエンハンサー活性は、このアンチセンスRNAの転写に関わる可能性があるので、前述のヒトBAC(#1)を有するトランスジェニックマウスの大脳皮質、線条体においてアンチセンスRNAの発現の有無を確認するなど、この新規RNAとの関わりについても検討を加える。
さらに、ヒトBAC(#1)を有するトランスジェニックマウスの大脳皮質におけるLacZレポーター遺伝子発現様式は、転写因子Bhlhb5の発現様式と酷似していることから、本研究で見出した脳エンハンサーの上流因子候補としてこの転写因子を挙げることができる。そこで、このトランスジェニックマウスの胎児脳(大脳皮質)に子宮内エレクトロポレーション法によってBhlhb5発現ベクターを異所的に導入し、内在性Bhlhb5発現が無い部位において異所的なLacZレポーター発現が誘導されるかどうかを調べ、エンハンサーの上流因子について検討する。

次年度の研究費の使用計画

次年度使用額が生じた状況については、当該年度に購入したマイクロ遠心機が予定よりも安価なキャンペーン価格で購入できたため、予算申請時との差額により生じたものである。
次年度研究費については、推進方策で記したように、アンチセンスRNAの発現解析に必要なTaqManプローブの合成やシークエンス解析依頼、試薬購入費などに使用するほか、トランスジェニックマウス解析および子宮内エレクトロポレーション実験に必要な物品費として使用する予定である。
また、研究成果発表と最新情報収集手段として、国内外の学会参加経費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] A sharp Cadherin-6 gene expression boundary in the developing mouse cortical plate demarcates the future functional areal border.2013

    • 著者名/発表者名
      Terakawa YW, Inoue YU, Asami J, Hoshino M, Inoue T
    • 雑誌名

      Cerebral Cortex

      巻: 未定 ページ: 未定

    • 査読あり
  • [学会発表] 自閉症スペクトラム患者共通リスクSNPsを含むゲノム領域は発達期脳においてエンハンサー活性を有する2013

    • 著者名/発表者名
      井上由紀子、井上高良
    • 学会等名
      第6回神経発生討論会
    • 発表場所
      理化学研究所和光キャンパス
    • 年月日
      20130314-20130315
  • [学会発表] マウス大脳皮質聴覚野形成におけるCadherin-6発現の役割2012

    • 著者名/発表者名
      江草早紀、井上由紀子、浅見淳子、星野幹雄、宗田孝之、井上高良
    • 学会等名
      Neuro2012(第35回日本神経科学大会)
    • 発表場所
      名古屋国際会議場
    • 年月日
      20120918-20120921

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公開日: 2014-07-24  

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