研究課題
近年行われたゲノムワイド関連解析の結果、自閉症スペクトラム(ASD)患者群で最も広く共有される6つの一塩基多型(SNP)が、染色体5p14.1に隣接するCDH10/CDH9遺伝子間の蛋白非コード領域に位置することが報告されている。本研究ではヒトゲノム配列を有する細菌人工染色体(BAC)を用いたトランスジェニックマウス作出技術を駆使し、このゲノム領域に中枢神経系における遺伝子転写調節活性が有るか否かを検証することを目的としている。前年度は、ヒトBAC(#1)のみに含まれるASDリスクSNPに対応するゲノム領域が大脳皮質・線条体・小脳における転写調節活性を有することを明らかにし、このゲノム領域の塩基配列が霊長類では高度保存されているもののげっ歯類では保存性が低いことを見出した。平成25年度においては、ヒトBAC(#1)に対応するマウスBACを用いてエンハンサートラップを行った結果、中枢神経系における活性は無いことが明らかになり、ASDリスクSNP領域の脳における転写調節活性は霊長類特異的である可能性が示唆された。また前年度中に、本研究対象ゲノム領域から新規アンチセンスRNA(Moesin pseudogene1 antisense)が転写されることが報告され、これがMoesin遺伝子から転写されるRNAと結合して、シナプス形成に関与するMoesinタンパク量を変化させることによりASDの病因に寄与することが推測されているため、ヒトBAC(#1)トランスジェニックマウス(レポーター遺伝子としてLacZを持つ)の大脳皮質・線条体・小脳から抽出したサンプルを用いて、アンチセンスRNAとLacZ RNAを定量したところ、両者には相関があり、本研究で見出したエンハンサー活性がアンチセンスRNAの転写を調節するものである可能性が高いことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初、ASDリスクSNPを含むゲノム領域が直近遺伝子のひとつであるCDH10発現調節に関わることを想定していたが、患者死後脳サンプルを用いた他研究グループの解析結果から、SNPジェノタイプとCDH10発現量の相関は無いことが報告された。また本年度、CDH10遺伝子そのものを含むBACを用いてエンハンサートラップを行ったところ、CDH10の特徴的な発現様式である前頭皮質における発現を含め、ほとんどの内在性発現を調節するエンハンサー活性は遺伝子近傍に存在することが明らかになり、ASDリスクSNP領域にCDH10発現に影響を与える遠位エンハンサーが存在する可能性は低いと考えられた。一方で、研究実績の概要に記したように、このゲノム領域から転写されることが報告されたアンチセンスRNAについて、そのエンハンサーである可能性を示すことができたので、研究目的であるASDリスクSNPを含むゲノム領域の脳エンハンサー解析としては十分に進捗していると考えている。
平成24年度、平成25年度に得られた結果をまとめ、論文として発表する。また、遺伝子をコードしないゲノム領域に存在する疾患関連SNPの機能解析法として、本研究により提示した「ヒトゲノム配列を有するBACを用いたトランスジェニックマウスによるエンハンサートラップ法」が有効であり、ポストゲノムの有益技術のひとつとなりうることについても、その利点を発信する。
物品費が予定よりも少なかったため。消耗品の購入が予定より少なかったのは、試薬などを他研究課題と共用することにより、節約することができたため。次年度は、論文投稿の際の査読料、追加実験のための消耗品購入費などを支出する予定である。また、成果発表を学会で行うための旅費等を支出する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Nature Communications
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