研究課題/領域番号 |
24510284
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
窪崎 敦隆 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 主任研究官 (30425673)
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キーワード | DNA脱メチル化 / エピゲノム制御 / ゲノム / 発現制御 |
研究概要 |
本研究は、細胞機能を改変する新規の方法を開発する為に、部位選択的DNA脱メチル化の誘導を行う事を目的にしている。昨年度に引き続き、本研究ではメチル化シトシンヒドロキシラーゼであるヒトTET1遺伝子に着目した。本年度において、pFN21A HaloTag Flexiベクターに組み込んだ全長ヒトTET1遺伝子を準備し、培養細胞である293T細胞を用いて導入を試みた。さらに遺伝子導入の効率を高めることの必要性から、高効率で低細胞毒性であると言われているクロンテック社のXfectトランスフェクション試薬の可能性についても検討した。一方、本研究課題において哺乳動物細胞発現用エピソーマルベクターを改変した解析手法 MoCEV (modified cytosine in episomal vector) 法を開発した。この方法は、任意の領域のシトシン修飾が近傍の遺伝子発現へ与える影響やTET1活性による脱メチル化機構を検証出来る新規の実験手法であると考えられる。研究代表者は、任意の配列上の全シトシンをPCR増幅時にヒドロキシメチルシトシンに置き換えた後、MoCEV法を用いて細胞内でのシトシンの修飾の変化を観察した。その結果、DNAの複製に伴ってnon-CpG部位のシトシンは修飾を持たないシトシンに、CpG部位のシトシンはメチルシトシンに変化することを明らかにした。この観察結果は、哺乳動物細胞におけるDNA脱メチル化がヒドロキシメチルシトシンを経たpassive demethylationであるという説明に疑問を呈する結果であった。この研究成果を筆頭著者の論文にまとめ、英文国際誌にて発表したところ、広く生命科学者から反響があり、現段階でNature Reviews Molecular Cell Biology誌やPLOS Genetics誌などの掲載論文に引用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において得られた研究成果は、国内外の学会において発表された。DNAの脱メチル化のメカニズムは、エピジェネティクス研究分野だけでは無く、iPS細胞やES細胞などを含む幹細胞研究など広く生命科学者の関心を集めるようになってきている。さらに、DNAのメチル化とガンなどの疾患との関連が指摘されるようになり、本研究の目的である部位選択的DNA脱メチル化の誘導法の重要性が高まってきている。そのため本研究課題の研究成果として、研究代表者が筆頭著者として執筆し英文国際誌上で発表した論文は、すでにNature Reviews Molecular Cell Biology誌などに掲載の論文に引用されるなど、大きな反響を得ている。さらに本研究で着目しているメチル化シトシンヒドロキシラーゼであるヒトTET1が、部位選択的DNAの脱メチル化誘導に有用である事を示唆する予備的な結果が得られていることから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考えられる。 一方、研究代表者は、平成25年2月末日まで勤務した理化学研究所を離れ、平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所に研究活動の場所を移した。そのため、本年度において本研究課題に必要な実験システムの構築に時間を使う必要があった。平成26年度は、本研究課題の最終年度である事から、国立医薬品食品衛生研究所の所属研究室の優位性を生かして、期限内に有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みることにする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、部位選択的なDNAの脱メチル化誘導によって細胞機能を改変する新規の方法を開発することである。具体的には、メチル化シトシンヒドロキシラーゼであるTET1の活性部位蛋白質を任意の場所に誘導する事によってその場所のDNAの脱メチル化を誘導し、新規の細胞機能改変法を確立する計画である。脱メチル化誘導の際の評価部位として、DNAのメチル化によって発現が制御されている遺伝子のプロモーター領域を複数箇所選定する計画である。TET1の活性部位蛋白質の評価部位への誘導方法として、その部位に結合することが報告されている細胞特異的転写制御因子に着目するとともに、最近技術革新が著しいジンクフィンガー蛋白質、TALEs、CRISPR-Cas9システムなどを応用することも検討する。特に、CRISPR-Cas9はバクテリアの免疫機構を応用した方法であり、本研究課題に活用するには有望であると考えられる。TET1の活性部位蛋白質導入によるDNA脱メチル化誘導後、評価部位周辺のDNAメチル化状態についてバイサルファイトシーケンス法による解析を行い、それらの結果をその後の研究発展の足掛かりにする計画である。研究代表者は、平成25年2月末日まで勤務した理化学研究所から、平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所に移籍した。そのため、本年度において本研究課題に必要な実験システムの構築に時間を使う必要があった。今後は国立医薬品食品衛生研究所の所属研究室の優位性を生かして、有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みることにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画は、おおむね順調に進展している。しかし、研究代表者が平成25年2月末日まで勤務した理化学研究所を離れ、平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所・衛生微生物部の主任研究官に着任した影響があった。所属研究機関の変更に伴って、本研究課題に必要な実験システムの再構築に時間を使う必要が発生し、本年度において費用別収支状況等の次年度使用額が発生した。現在、実験システム再構築が完了した事から、次年度において現在の研究室での優位性を生かし、且つ、本研究の目的であるエピジェネティック工学に基づく細胞工学という独創性のある方法の検討を行い、期限内に有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みる計画である。 次年度は、当初計画通り必要な培養細胞、試薬、消耗品などの購入を計画している。また、DNAメチル化状態を検討する為のバイサルファイトシーケンス法に用いる試薬などを購入する。網羅型塩基配列決定に関して、所属研究所が次世代シーケンサーを所有しており、この解析機器を使用する予定にしている。従って、当初の計画通り、大量塩基配列決定に必要な試薬の購入を計画している。ただ、本研究計画が遅れないように外部研究機関との共同研究や外部委託についても検討し、適切に支出する予定にしている。得られた塩基配列決定データの解析が重要である事から、必要な性能を有する解析用コンピューターやCLC Genomics Workbench などの解析ソフトの購入を検討している。
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