緑藻由来のガラクトシルグリセロ脂質のニグリカノシド類は、強力な有糸分裂阻害活性と新規で特異なエーテルクロスリンク構造を持つため、薬剤耐性を克服しうる新たな抗癌剤のリードとして強く期待される。一方、これらは緑藻からの産生量が低く物質供給に難があり、立体化学も未解明のため、詳細な生物活性の研究が停滞している。申請者は、独自に立体選択的な鎖状エーテル構築法を開発しているため、これを適用した上記の「供給と立体化学」の課題の解決を企図した。具体的に次の4点を目的としている。(1)合成化学的にニグリカノシド類の絶対配置を決定する。(2)同時に、天然型立体配置のニグリカノシド類の全合成を行う。(3)さらに、その合成法を最適化し、物質供給に適した効率的全合成経路を確立する。(4)ニグリカノシド類の立体異性体および糖部の変換体を合成してライブラリーを構築し、有糸分裂阻害・癌細胞成長抑制活性における構造活性相関の究明に役立てる。 平成26年度は、ニグリカノシドAジメチルエステルを対象として、全合成のための上部脂肪酸鎖の構築を検討した[目的(2)(3)]。まず、アイルランド-クライゼン転位によりC10-O-C11'のエーテルクロスリンク部を構築した。光学活性な2-ブロモアリルアルコールとアルコキシ酢酸から成るエステルをZ-ケテンシリルアセタールに誘導後転位させ、2-ブロモアリルアルコール部の不斉をC10位の立体化学に選択的に転写しつつエーテルクロスリンクを形成した。転位体のブロモアルケン部をシスアルケンに変換し、上部脂肪酸のC9-C16部位を合成した。また、上部脂肪酸鎖のC1-C8部位に相当する光学活性なアルキンセグメントを合成し、上記の部位と連結して、必要な官能基を全て備えた上部脂肪酸鎖の骨格構築に成功した。全合成まで、既に合成した下部脂肪酸鎖のC1'-C9'の部位との連結を残すのみとなった。
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