研究実績の概要 |
本研究課題で対象とする細菌キチナーゼは、N末端側にキチン結合ドメイン、C末端側に活性ドメインを持っており、抗真菌活性の発現には2つのドメインが同一分子内にあることが重要である。2つのドメインの位置関係は、リンカーにより大きく影響を受けると考えられることから、リンカーに変異を導入し、活性や構造に与える影響を検証すべく研究を進めている。試料調製に際し、変異酵素にタグを導入することで調製方法が簡便になった一方、これにより抗真菌活性の評価が正しく行えないことが昨年度実施した実験で分かった。したがって、今年度はタグの導入のない変異酵素(リンカー延長型およびリンカー置換型)の調製を試みた。まず、塩基配列の使用コドンを宿主である大腸菌のものに最適化することで、野生型と同じ系で活性測定に必要な酵素発現量を得ることができた。このようにして発現、次いで精製して得た試料を用いて、抗真菌活性(被検菌: Trichoderma reesei)およびキチン分解活性(基質: コロイダルキチン)を測定した。その結果、変異導入による両活性への大きな影響は最大で20%程度であった。また、細菌キチナーゼと同様のドメイン構造を持つ植物キチナーゼについては、大腸菌において大量に発現するものの、不溶化が問題となっており、発現条件の検討が必要な状況にある。 これと並行して独自の方法によりモデリングを実施し、溶液中で取りうると考えられるコンフォメーションの解析を行った(コンフォメーションの選抜については、平成24年度に報告)。得られたモデル構造には、2つのドメインが離れ、活性部位がキチン結合ドメインが基質と結合する面とは逆方向を向いている特徴が見られた。この配向は、我々が提唱しているキチン分解モデル(Kezuka et al., J. Mol. Biol. 2006; Kezuka et al., Proteins 2010)と矛盾しないものであった。
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