本研究の目的は、社会性昆虫にみられる自分を犠牲にして仲間を助ける「利他行動」を、社会性アメーバである細胞性粘菌をモデルとして、この行動を制御する分子機構を理解することにある。 2008年Santorelli等によるREMI変異体の大規模解析によって利他行動にかかわることが示唆されたポリケタイド合成酵素はpks2とpks26の二つが報告されている。26年度は裏切り者になるpks2遺伝子破壊株の解析と更に、pks26の解析も並行して行った。 26年度はpks2を遺伝子破壊すると裏切り者(cheater)として胞子に分化しやすくなることを定量的に明らかにすることができた。これは野生型株とキメラを作って継代培養してできた胞子の中に含まれる遺伝子破壊株の割合の変化をQ-PCRを用いて調べることによって明らかにした。pks2遺伝子破壊株は単独では胞子分化が抑制され、生存には不利であり、裏切り者を抑制するtrade offの関係があることが示された。産物については予想以上に微量であり解析には更に時間がかかると考えられる。一方Pks26については遺伝子破壊をすると積極的に柄細胞に分化するLoserとなることが分かった。この株についても野生型株とキメラを作って継代培養してできた胞子の中に含まれる遺伝子破壊株の割合をQ-PCRで解析したところ代を重ねるごとに減少することからLoserであることを明らかにした。この二つの遺伝子破壊株の挙動解析から利他行動には発生のタイミングがかかわっていることが示唆された。
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