研究課題/領域番号 |
24510307
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川田 健文 東邦大学, 理学部, 教授 (30221899)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | チロシンキナーゼ / シグナル伝達 / 転写因子 / SH2ドメイン / 細胞性粘菌 / チロシンキナーゼ様タンパク質 |
研究概要 |
タンパク質のチロシン残基のリン酸化、脱リン酸化は活性制御機構のもっとも重要なもので、非常に多くの重要な生体反応に関わっている。これらの反応を司る3つのタンパク質部品は、それぞれが異なる進化段階で順次獲得されたという説が提唱されている。細胞性粘菌は3つ目の部品(チロシンキナーゼ)が謎とされ、チロシンリン酸化シグナル進化の分岐点に位置する生物である。これ迄に我々は細胞性粘菌より部品候補のチロシンキナーゼ様タンパク質(TKL)を複数同定していた。本研究では、原生生物においては複数のTKL の機能が複合的に作用して原始的なチロシンキナーゼの役割をするという仮説を提唱し、チロシンリン酸化シグナル獲得の進化的分岐点を明らかにするため、細胞性粘菌に存在する複数のTKLが協調してチロシンキナーゼの代用をするのか、或は単独でチロシンキナーゼとして作用するのか、個々のTKLの機能と協調的作用を調べることで仮説の検証を目指している。 24年度では、個々のTKLの機能を調べることに主眼を置き、それぞれの遺伝子の破壊株と過剰発現株、さらには点突然変異導入TKL過剰発現株等を得ることが出来た。その結果、それぞれのTKLは遊離細胞状態ではSTATaというSH2ドメインを有する転写因子のリン酸化に程度の差こそあれ関与することが示されたが、多細胞体においては遺伝子破壊株と点突然変異導入TKL過剰発現株のいずれにおいてもリン酸化が阻害されなかったことから、複数のTKLが冗長的に作用していることが示された。このデータは、TKLがチロシン残基をリン酸化でき、複雑なシグナル伝達経路の場合には複数のTKLが特異的なチロシンリン酸化に関与する可能性を示すもので、真核生物が進化の過程でどのようにチロシンキナーゼを獲得したかという観点について重要な知見を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに同定された候補TKL遺伝子の全てについて、全鎖長のcDNAを発現ベクターへクローン化し、これを過剰発現する株を作製した。得られた株を用いて、cAMP による誘導実験を行い、STATa リン酸化レベルの変動を検証した結果、タンパク質の予期せぬ分解が見られた一部の遺伝子以外では上昇が見られた。また、1つの遺伝子を除き、全てについて遺伝子破壊株を得ることが出来た。その1つの遺伝子については、ストックセンターよりタグ挿入変異株を得てこれを代用した。これらの遺伝子破壊株やキナーゼドメインのATP結合部位に変異を導入したkinase dead TKL過剰発現株、また、キナーゼドメインを含まないΔTK-TKLタンパク質の過剰発現株をほぼ全ての候補TKL遺伝子について作製出来た。これらのloss-of-function株やdominant negative株を用いて、cAMP による誘導実験を行い、STATa のリン酸化レベルの変動を調べたところ、全てにおいて低下していた。特に、タグ挿入変異株と別の1つの遺伝子破壊株では著しい低下が見られたほか、kinase dead株では全てのTKLにおいて顕著な影響が見られた。 今まで未解析の24 個のTKL遺伝子について、キナーゼドメイン過剰発現株を作製する計画であったが、これについてはほとんど手を付けることが出来ずに、1個の遺伝子に留まった。また、いくつかの遺伝子についてはCre-loxPシステムを用いて作製された遺伝子破壊株から、loxPを含む断片を除去出来なかったが、遺伝子破壊株の作製は25年度までずれ込むと予定していた実験であり、計画以上に進展した。また、共同研究によるSTATcをリン酸化するTKLの解析については、これがPyk2であることを証明し、論文として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子破壊株が得られていない遺伝子については、新規のノックアウトコンストラクトを用いて破壊株の作製を行う。また、候補遺伝子を複数同時に破壊した多重遺伝子破壊株の作製のために、既存の遺伝子破壊株にCreを導入して薬剤耐性カセットを除去した株を得る。別法として、2重遺伝子破壊株についてはハイグロマイシンB耐性カセット(hygR)を用いて作製を試みる。また、隣接遺伝子については1つのノックアウトコンストラクトで2つを同時に破壊することが可能と推測され、それを試みる。また、別法としてdominant negativeコンストラクトを他の遺伝子破壊株に形質転換するか、多重dominant negative株の作製も試みる。これらの株が得られれば、通常発生におけるSTATa リン酸化レベルの変動を検出し野生型と比較する。 それぞれのTKLの発現や細胞内局在を確認するため、CFP やYFP 或は他のタグとの融合コンストラクトを作製し、各々の遺伝子破壊株または野生株に形質転換して発現株を作製し局在をみる。多細胞期におけるそれぞれのTKL遺伝子とSTATa 標的遺伝子の経時的、空間的な発現を調べる。 TKLの生化学的な性質を調べるため、個々のMyc 融合TKLタンパク質の発現株を作製し、これらを用いた共免疫沈降法によってTKLとSTATaの結合を確かめる。また、大腸菌中でTKLを発現させて精製し、自己リン酸化能を調べるとともに、STATaとのpull downアッセイを行う。さらに、STATaリン酸化能の検証のため、GST-STATaを大腸菌で発現して精製し、免疫沈降で精製したMyc融合TKL タンパク質と混ぜてin vitro kinase assayを行ってリン酸化能を検証する。この時に、コントロールとしてkinase deadのTKLや変異型のSTATaも用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度はほぼ計画どおりに研究を遂行出来たため、小額の残余が生じたのみであった。25年度の使用計画にも当初と大きな変更は無い。25年度も全て消耗品に使用する。培養関連のプラスチック器具や培地用の試薬・薬品が主となり、遺伝子破壊株スクリーニングのための合成DNAオリゴ作製代、PCR用の酵素、プラスミド精製キットなどにも支出する。この他、免疫沈降やプルダウンのための各種タグに対する市販の抗体やマグネティックビーズを購入するほか、ウエンタンブロット用の試薬やプレキャスト・ゲルにも多くを支出する。この他、GFP等のタグ付きタンパク質が機能しない場合には、対応するTKLタンパク質に対する特異的な抗体の作製を専門業者に依頼することもあり得る。
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