研究課題/領域番号 |
24510307
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川田 健文 東邦大学, 理学部, 教授 (30221899)
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キーワード | チロシンキナーゼ / シグナル伝達 / 転写因子 / SH2ドメイン / 細胞性粘菌 / チロシンキナーゼ様タンパク質 |
研究概要 |
タンパク質のチロシン残基のリン酸化、脱リン酸化とその伝達を司る3つのタンパク質部品が異なる進化段階で順次獲得されたという説が提唱されている。細胞性粘菌はチロシンリン酸化シグナル進化の分岐点に位置する生物で、チロシンキナーゼが謎であるが、これ迄に我々はチロシンキナーゼ様タンパク質(TKL)を複数同定した。本研究では、原生生物においては複数のTKL の機能が複合的に作用して原始的なチロシンキナーゼの役割をするという仮説を提唱し、細胞性粘菌のTKLが複数協調してチロシンキナーゼの代用をするのか、個々のTKLの 機能と夫々の相互作用を調べることで仮説の検証を目指している。 25年度では、積み残した個々のTKLの機能解析を行なうとともに、それ迄に得られた個々の遺伝子破壊株を利用した2重遺伝子破壊株の作製に主眼を置いた。その結果、1種類の2重遺伝子破壊株が得られ、個々の機能解析から特に2種類のTKLについてはSTATaのリン酸化に関わる可能性がきわめて高くなり、また、残りの1種類についてもある程度寄与していることが確認され、これら3種について集中的に解析した。今回詳細に確認されたデータは個々のTKLは遊離状態の細胞ではSTATaというSH2ドメインを有する転写因子のリン酸化に関与することを示したが、多細胞体においてはSTATaのリン酸化の消失や低下がなかったことから、複数のTKLが冗長的に作用しているという昨年までのデータが再現された。このことは、多細胞体の発生過程においては複数のTKLが特異的なチロシンリン酸化に関わっていることを示唆しており、真核生物進化のチロシンキナーゼ獲得過程について重要な知見を提供している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで候補TKL 遺伝子の幾つかについて全鎖長のcDNA を過剰発現する株を作製し、cAMP による誘導実験ではほとんどの株についてSTATa リン酸化レベルの上昇が見られた。25年度は、特にSTATaをリン酸化する可能性の高い4つについて、24年度までに未完成の遺伝子破壊株やキナーゼドメインのATP結合部位に変異を導入したkinase dead TKL過剰発現株、また、キナーゼドメインを含まないΔTK-TKLタンパク質の過剰発現株を全ての候補TKL遺伝子について作製した。これらのloss-of-function株やdominant negative株を用い、cAMP による誘導でSTATa のリン酸化レベルの変動を調べたところ、3つの遺伝子において低下し、1つでは低下しなかった。また、海外共同研究者の支援で組換えTKLタンパク質を発現し、STATaのリン酸化をin vitroで調べたところ、解析した2つについてリン酸化レベルが上昇した。 25年度は有力な4つについて可能な限り2重遺伝子破壊株を作製することに主眼を置いたが、作製出来た株は1種類であった。しかし、別の1つの遺伝子破壊株においては、Cre-loxPシステムを用いて遺伝子破壊株から、loxPを含む断片を除去出来たために、この株に各種のkinase deadを発現する株を全ての組み合わせで作製した。 今まで未解析の23個のTKL遺伝子について、キナーゼドメイン過剰発現株を作製する計画であったが、これについては手を付けなかった。また、共同研究によるSTATcをリン酸化するTKLの解析については、pyk2とpyk3の2重遺伝子破壊株の解析について論文として投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
有力な候補TKL遺伝子の単一遺伝子破壊株は全て得られたので、今後は新規組み合わせの2重遺伝子破壊株、及び3重遺伝子破壊株の作製を行なう。そのために、引き続きloxPを含む断片を除去出来ていない単一遺伝子破壊株にCreを導入して薬剤耐性カセットを除去する。2重遺伝子破壊株についてはハイグロマイシンB耐性カセット(hygR)を用いての作製も試みる。また、loxPを含む断片を除去した遺伝子破壊株については、これに2つのdominant negativeコンストラクトを形質転換することで、多重dominant negative株を作製する。これらの株について通常発生におけるSTATa リン酸化レベルの変動を野生型と比較する。 生化学的な性質を調べるため、25年度にMyc 融合TKL タンパク質の発現株を作製した。26年度は、これらを用いた共免疫沈降法によってTKLとSTATaの結合を確かめる。2つのTKLについては過剰発現が致死的になるか、C末端側のタグが除去される可能性があるため、TKLの中央部にタグを導入したタンパク質を発現する株を作製する。また、in vitroでの解析が未だの2つについて大腸菌中でTKLを発現して精製し、自己リン酸化能を調べてSTATaとのpull downアッセイを行う。25年度にTKLによるSTATaリン酸化能を調べるため、His-STATaを大腸菌で発現し精製したが、リン酸化されていることが判明した。この問題を解決するため、26年度は細胞性粘菌中でHis-STATaを発現させ、リン酸化されていないSTATaを精製する。これと免疫沈降で精製したMyc 融合TKL タンパク質と混ぜてin vitro kinase実験にてリン酸化能を検証する。コントロールとしてkinase deadのTKLや変異型のSTATaも用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度もほぼ計画どおりに研究を遂行出来たため、小額の残余が生じたのみであった。 26年度の使用計画にも当初と大きな変更は無い。26年度も全て消耗品に使用する。培養関連のプラスチック器具や培地用の試薬・薬品が主となり、遺伝子破壊株スクリーニングのための合成DNAオリゴ作製代、PCR用の酵素、プラスミド精製キットなどにも支出する。この他、免疫沈降やプルダウンのための各種タグの対する市販の抗体やマグネティックビーズを購入するほか、ウエスタンブロット用の試薬やプレキャスト・ゲルにも多くを支出する。
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