研究課題
平成25年度は、平成24年に得られた結果を踏まえ、研究計画に基づいて研究を遂行し、当初の予定通りあるいは、下記のように、部分的には想定以上の成果を得ることができた。1)進化促進部位の機能評価:ウログアニリンの生理活性部位の熱力学安定性と前駆体蛋白質の正しい立体構造形成との相関を得るため、生理活性に直接関与しない部位への変異を施した様々な前駆体を調製し、それらのin vitroでの立体構造および構造形成を調査した。その結果、生理活性(受容体と直接結合する部位)部位以外での変異は前駆体プロウログアニリンの立体構造形成には殆ど影響しないことが分かり、我々の提唱する仮説を支持する結果となった。また、これら変異体をヒト細胞によっても同様な結果が得られ、細胞内における分子進化への相関を得ることができた。ただし、細胞を用いた場合では、より顕著な現象が得られた。2)分子進化抑制因子の機能評価:平成24年度に遺伝子組み換え法と化学ライゲーション法を組合せた手法を確立することができたため、その条件により、種々なD-アミノ酸変異を施した前駆体プロウログアニリンを調製し、それらの立体構造形成について検討した。その結果、予想通り、いずれのD-アミノ酸変異体も,全て天然型の正しいジスルフィド結合をもつ立体構造を形成できることが分かり、分子進化の礎を築くことができた。今後、これら前駆体より得られる成熟体の立体構造解析と生理活性評価について検討を行い、人工的な分子進化の促進を図る。3)POMC、ヘプシジン、ANPについて、前駆体蛋白質およびそれら成熟ペプチドの立体構造形成と機能について検討を行った。その結果、特に、POMCとANP前駆体について、これまでの常識を覆すような新たな機能を見出すことができた。現在、それらについて、論文を作成するため、詳細にデータを収集しているところである。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度に本研究の基本となる手法および試料調製法を確立することができたため、ほぼ順調に研究をおこない、下記のように当初の目的を達成することができた。1)分子進化促進部位の立体構造評価:生理活性部位(-Asn-Pro-Ala-)の立体構造形成の要となるAsnをAlaに変異した前駆体を調製し、その結晶化条件を検討した。その結果、硫酸アンモニウムを沈殿剤として用いた条件で結晶を得ることができた。いくつかの条件で結晶が得られているが、それらによる回折分解能はまだ低く(2Å程度)、さらなる良質な結晶を得るべく、結晶化条件の精密化を行う段階に達することができた。これにより、分子進化に対するさらなる詳細な情報を得ることが可能になる。2)進化抑制因子に関する検討:平成24年度での検討により化学ライゲーション法によるD-アミノ酸あるいは異常アミノ酸を前駆体に導入することが可能になったため、様々な変異により立体構造形成を評価することが可能になった。それにより、本年度は、さらに詳細な情報を得ることができた。ほぼ、研究計画通りに順調に進んでおり、人工的な分子進化体の獲得も進んでいる。3)POMCの新規機能については昨年得られた情報をもとに、より詳細なデータが得られており、トランスジェニック体の作成を見据えて、より高い目的を達成することができるのでは期待している。また、ANP前駆体の立体構造形成あるいはその安定化に対する評価から、研究当初では予想しなかった新規機能が見出されてきており、これについては、平成26年度内に詳細なデータを抑え、論文投稿を行いたい。以上のように、プロウログアニリンを用いた分子進化機構および進化抑制機構については、順調に研究が進んでおり、POMCおよびANP前駆体については、当初以上の成果をあげつつあるところである。
平成25年度の研究目的が達成できたため、当初の予定通り、下記の項目について検討を行う。また、平成26年度は、できるだけ成果報告をすべく、論文作成および学会発表を行う。1)分子進化促進因子に関する検討:生理活性と局部構造の安定化に関する精密な情報を得るため、生理活性部位のAsnをAla変異した前駆体プロウログアニリンについて、すでに得られた結晶の回折測定、および、引き続き、結晶化条件の精密化を行う。2)進化抑制因子に関する検討:進化抑制因子を除去した様々な変異体を作成し、分子進化を人工的に促進させた蛋白質を作成する。また、平行して、それらより得られる生理活性ペプチドの生理活性について検討する。3)POMC,ヘプシジン前駆体、ANP前駆体に関して得られたこれまでの結果を踏まえ、それらを進展させるとともに論文作成および成果発表に重点を置く。そのため、平成25年度に、国際学会を含めて学会発表および論文発表を行ってきたが、平成26年度も引き続き国内外での学会発表(国際学会を含む)および論文発表を行っていく。そのため、詳細データ収集のための組換体の作成・精製に対する消耗品購入費および出張旅費として、約50万円を平成26年度に繰り越した。
平成24年度内に、殆どの実験・反応条件が最適化できていたこと、また、それにより、作成した試料の構造解析の方へより精力を注ぐことが可能であったため、平成25年度は試料調製のための器具・試薬等の消耗品費を当初の予定に比べて大幅に削減することができた。そのため、成果報告に関する旅費の支給に研究費を充てた。また、平成26年度では、それらにより得られた成果をもとに新たな組換体を作成し、それらの立体構造形成を検討する必要が出ている。本研究のより発展的な成果を得るため、また、成果発表への旅費支給のため、研究費を次年度へ繰り越した。分子進化に関する生理活性と立体構造形成の関連について、さらに組換体を用いた結晶構造解析のための試料調製を行う。また、進化抑制因子の解明および人工進化型前駆体を作成するために、化学ライゲーション法を用いた手法が必要であり、これらの試薬および精製に関する器具・試薬類の購入に用いる。また、当初の計画に比較して、研究成果に示したように、より順調に研究が進行しているため、平成25年度に得られた研究成果の発表および学会への参加のための旅費として使用する。
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