研究課題
申請者らは平成24年度までに、乾燥ストレス時のHAI遺伝子の発現誘導が、AREBまたはSnRK2をノックアウトした3重変異体において顕著に抑制されること、および、植物の生細胞中でSnRK2とHAIタンパク質が結合することを示した。昨年度(平成25年度)は、HAIのGFP融合タンパク質の局在性解析および遺伝子発現の詳細なプロファイリングを行った。また、大腸菌発現タンパク質を用いて、in vitroでのHAIタンパク質のリン酸化能におけるABA濃度特異性を明らかにした。これらの解析を通して、HAI によるフィードバック制御の基本的な特性を明らかにすることに成功した。一方で、HAIの3重変異体シロイヌナズナを用いて、各種表現型解析およびストレス応答試験を行った。本年度は、さらにHAI1、HAI2およびHAI3が属するサブグループAbのすべてのPP2Cをノックアウトした4重変異体(hai1 hai2 hai3 ahg3)を作製した。また、サブグループAaとAb におけるPP2Cの役割と機能を明らかにするため、サブグループAaのPP2Cをノックアウトした3重変異体(abi1 abi1 hab1)と4重変異体(abi1 abi2 hab1 hab2)を作製した。しかしながら、サブグループAaの4重変異体種子は、ほとんど発芽せず、まれに発芽したものも野生型シロイヌナズナに比べて著しい生育阻害が観察された。これらの結果から、グループAa PP2Cは基本的な生育に関与していることが示唆された。一方で、グループAbの2種類の多重変異体は、通常生育条件下において野生型シロイヌナズナに比べて顕著な表現型の差を示さなかった。しかしながら、予備的な各種ストレス試験の結果から、水分ストレス時には、野生型に比べて顕著な表現型を示した。これらの結果から、グループAbのPP2Cは、ストレス特異的な役割を持っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、工程表通り、グループAaの3重変異体(abi1 abi1 hab1)と4重変異体(abi1 abi2 hab1 hab2)を作製した。また、グループAbの4重変異体(hai1 hai2 hai3 ahg3)を作製した。これまでは、グループAbに属するPP2CであるHAI1、HAI2およびHAI3に焦点をあてて解析を進めてきたが、今後、グループAaとAbのPP2Cを比較解析することにより、その役割分担や機能の違いが明確になり、植物の乾燥ストレス応答におけるグループA PP2Cを介したフィードバック制御機構が解明されることが期待される。
コケやシダ植物ももっているグループAaのPP2Cとダイズやイネなどの被子植物のみがもっている新しいタイプのグループAbのPP2Cの役割や機能の違いを明らかにすることにより、なぜ被子植物では、新しいタイプのグループAb PP2Cが必要になったかを明らかにする。そのため、本年度までに作製した多重変異体のさまざまな観点からの比較解析に重点をおく予定である。
実験計画は順調に進捗しているが、本年度は思った以上に実験に時間をとられたため、予定していた海外学会と国内学会の参加を取りやめたことにより、次年度使用額が生じた。次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子解析などより費用のかかる先端的な解析に用いることを計画している。
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DNA Research
巻: 20 ページ: 315-324
10.1093/dnares/dst012