研究課題/領域番号 |
24510314
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
SURESH Awale 富山大学, 先端ライフサイエンス拠点, 特命助教 (00377243)
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キーワード | pancreatic cancer / PANC-1 / metabolomics / NMR / antiausterity strategy / biomarker / drug discovery |
研究概要 |
がん細胞は一般に不規則かつ急速に増殖し、多くの場合、脆弱で無秩序に血管系が形成されるためグルコース欠乏や低酸素、その他栄養素の不足などストレスの多い微小環境にさらされている。しかしながら、腫瘍細胞はエネルギー代謝を調節して、低栄養・低酸素供給のような苛酷な条件に耐える固有の能力を示す。特に、PANC-1 などのヒト膵臓がん細胞は、低栄養・低酸素を特徴とする極限環境において長時間の生存が可能となる耐性を有することが知られている。したがって、がん細胞の栄養飢餓耐性を解除することができる物質 (antiausterity agent) は、抗がん剤探索における新規標的と考えられる。この仮説に基づいた研究の中で、当該課題の 2 年目においては、Uvaria dac,Caesalpinia sappan,Artocarpus altilis より数多くの antiausterity agent の発見に至った。さらに、本課題では、ヒト膵臓癌細胞の栄養飢餓耐性と生存に対応する'austerity'代謝バイオマーカーを特定することを目的とている。Antiausterity agent が austerity バイオマーカーをどのように調節しているのかを明らかにすると同時に、がん細胞が栄養飢餓条件で優先的に生存率を阻害するのかを明確にする。これを達成するために、選抜された antiausterity agent の効果を、栄養豊富および飢餓の条件下でヒト膵臓がん細胞 PANC-1 に対して試験し、異なる時間間隔での培養上清を FT-NMR 測定し、代謝学的プロファイルでの効果を分析した。また、非極性のクロロホルム可溶性代謝物の変化に対する antiausterity agent の効果を調べている。代謝物変動の分析には米バイオラッドラボラトリーズ社製のソフトウェア『KnowItAll』を使用した。Antiausterity agent により手がかりとなる違いが検出されているが、この代謝物は現在、詳細な特定が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞の栄養飢餓耐性を解除しうる antiausterity agent を見つけるために、由来を異にする様々な約 100 種の薬用植物をスクリーニングした。共同研究先のベトナム、タイ、ネパールで植物の収集および抽出がなされた。各抽出物は、ヒト膵臓癌細胞株 PANC-1 に対する選択的な細胞毒性活性を試験した。活性を示した抽出物は植物化学的研究を行い、その結果、多くの新規 antiausterity agent を見出した。これらの結果は、国際誌数誌にて公表した。Antiausterity agent のうち主要な数種類について、栄養条件および飢餓条件での膵臓がん細胞の代謝における効果を調査した。培養上清に放出される代謝物および細胞中の代謝物をそれぞれ抽出し、乾燥・調製後、NMR により分析した。細胞内代謝物と培養上清中に放出された代謝物の双方において、対照群と antiausterity agent 処理群とのそれぞれの代謝産物プロファイル間に明確な変化が観察される刺激的な結果が得られた。低栄養条件下、antiausterity agent 添加で培養した PANC-1 細胞に酢酸・乳酸・ギ酸に変動が観測された。しかしながら、コハク酸・フマル酸・リンゴ酸のような代謝産物は NMR では培養上清の検出は出来ず、FT-MS 分析の必要があると考えられる。一部の標的代謝物の同定は、学内共同利用の NMR およびその他の機器の使用時間の制限のため進行中である。一方、PI3K・Akt・mTOR のような栄養飢餓耐性やオートファジーに関与する重要なタンパク質の変動についての解析は完了している。
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今後の研究の推進方策 |
選抜した数種類の antiausterity agent の飢餓耐性にある PANC-1 細胞の代謝物変化における効果を引き続き分析する予定である。新規 antiausterity agent の探索も引き続き行う。NMR 分析で認められる新たな代謝物ピークのうち主な成分の構造の同定は、米バイオラッドラボラトリーズ社のデータベースならびにColmar・Metabohunter等の他のインターネット上で利用可能なデータベースを利用して進めていく。特に、TCA回路産物の代謝プロファイルの確認を継続する。栄養飢餓状態での脂質プロファイルが明らかに変化することを観測しており、この点についても脂質バイオマーカーに特に注意を払って進めていきたい。本研究課題ではまた、FT-NMR および FT-MS といった手法を利用して生体内実験での代謝変化を調査することを目的としている。Antiausterity agent の数多くの栄養飢餓耐性に関与するタンパク質に対する効果を PI3K,Akt,mTOR のような主要な生存因子やオートファジーに大きな焦点をあてて研究を続けていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度中に納品見込みとされていたの試薬が、在庫不足により年度末期日に納品されなかったため次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、当該試薬の購入に充て、平成26年4月に納品されている。
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