研究実績の概要 |
がん細胞は一般的に無秩序かつ急速に増殖し、多くの場合、脆弱かつ無秩序な血管系に起因したグルコース欠乏、低酸素または他の栄養欠如などストレスの多い環境に晒されている。しかし、がん細胞はエネルギー代謝を調整すること「緊縮性」によって、低栄養・低酸素という厳しい環境に対する先天的な耐性がある。特に、PANC-1などのヒト膵臓がん細胞は、低栄養・低酸素という特徴のある過酷な環境に長く生き残れる耐性を持つことが知られている。従って、がん細胞の栄養飢餓に対する耐性を排除することができる薬剤(抗緊縮剤)は、抗がん剤発見における新規標的として見なされている。この仮説に基づいて、我々は新規抗緊縮薬を発見するため、薬用植物のスクリーニングを行った。ヒト膵臓がん細胞の栄養飢餓耐性に関与する「緊縮性」代謝バイオマーカーを同定し、抗緊縮薬剤からこれらの代謝産物への影響を明らかにすることも目的とした。 ベトナム、タイ、ネパール由来の約150種の薬用植物をスクリーニングした。Uvaria dac, Caesalpinia sappan, Artocarpus altilis, Chamaecyparis obtuseなどの活性抽出物から有効成分を検討し、32個の新規化合物を発見した。栄養飢餓環境下のヒトすい臓がん細胞においてオートファジー(autophagy) マーカーである微小管関連タンパク質1軽鎖3の増加が見られた。(+)grandifloracinは、Aktを著しく抑制し、LC3-IおよびLC3-IIを著しく増加することが判明され、オートファジーのハイパー活性化は栄養欠乏状態時のがん細胞死の代替機構であることが示唆された。栄養豊富な状態および栄養欠乏状態において、活性成分からすい臓がん細胞の代謝に及ぼす影響を検討した。活性成分のほとんどは、コリン代謝物乳酸の形成および変動を抑制することが判明した。
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