研究課題
基盤研究(C)
第一に、ペプチドアプタマー候補配列の同定は、in vitro転写翻訳系を利用したcDNAディスプレイ法により行った。膜透過性ペプチドはアルギニンの出現頻度の高いことから、DNA配列は完全なランダムではなく、アルギニンをコードするコドンが多くなるように事前にバイアスをかけ、ペプチド‐cDNA複合体のアフィニティによる人工的な選択淘汰のプロセスにおいて、 脂質膜を固定した基板に対する吸着ペプチドを選別した。このプロセスは、研究協力者であるジェナシス(株)の技術協力の下で行われた。現在、複数回のサイクルを経て、収束配列の確認を進めている。第二に、次年度に予定されているペプチドアプタマーの機能評価のための準備として、細胞膜と相互作用する既知のペプチドについて機能評価を先行して行った。1次評価系であるペプチドとリポソームとの結合力を測定法として蛍光相関分光法を利用した。モデルペプチドとして、代表的な抗菌ペプチドであるヒトディフェンシンβ2を使用した。検証の結果、リポソームへの蛍光標識ペプチドの吸着を大きな蛍光変動としてとらえることができた。その変動の頻度から4種類のリポソームに対する吸着力を定量的に評価したところ、リポポリサッカライドが最大の吸着量を有しており、評価系の妥当性が確認できた。これら研究実施の過程で、興味深い知見も得られた。それは、既知の天然ペプチド配列の多くに細胞膜と相互作用するものが見出され、そのいくつかには全く別の機能を持っているにも関わらず強い抗菌活性が認められたことである。このことは、人工ペプチドと天然ペプチドについて配列相同性の比較から新機能を予測できる可能性を示唆する。
3: やや遅れている
アプタマースクリーニングの検証においては、選別プロセスで必要な脂質膜を固定した基板の調製に難航し、収束配列が得られる条件設定を見出すに至らなかった。今後、さらなる検証を進め解決を図る予定である。予算執行においては、パートタイムでの実験補助者を雇用することを計画していたが、適任者が得られなかったため、人件費を翌年度に繰り越すこととした。これにより次年度研究経費と合算し、フルタイムでの実験補助者を雇用することで研究を加速させる。
ペプチドアプタマー候補配列は収束配列のうち15~20種類程度についてペプチド自動合成機を利用した固相合成法により化学合成する。ペプチドアプタマーのアミノ酸鎖長は8~10残基を想定しているので、ほとんどの配列は化学合成により容易に合成可能である。合成後は逆相HPLCにより精製し、質量分析計とアミノ酸組成分析により構造確認と定量を行う。1次評価として合成された候補ペプチドとリポソームとの結合力を測定する。そのために蛍光相関分光法および表面プラスモン共鳴法によるバイオセンサーを用いる。今年度、先行して検証した蛍光相関分光法のほか、表面プラスモン共鳴バイオセンサーを利用して脂質膜を結合させたセンサーチップに対する結合解離のリアルタイム測定を検討する。ペプチドの分子量が小さいため、感度に見合った測定濃度での評価となるが、リガンドの標識なしで評価できる利点がある。両者の評価法も人工的な脂質膜への表面吸着を指標とした分析であるが、比較的迅速に多種類のペプチドの結合力評価が可能である。2次評価としてペプチドの細胞内部への移行を共焦点蛍光顕微鏡により評価する。HeLa細胞の培養上清に1次評価により脂質膜結合能有りと評価された蛍光標識ペプチドを添加し、細胞内への移行を観察する。同時に細胞内局在や分解により蛍光を失われる時間についても情報を得る。
今年度は、パートタイムでの実験補助者の適任者を採用できなかったため、人件費を繰り越し、次年度にフルタイムの実験補助者の人件費として1920千円を予定している。また、今年度に行った実験に使用した試薬・器具類の一部は、研究代表者の既存の保有物品で充当した。そのため今年度に使用しなかった研究費を次年度に繰り越し、分析用試薬・器具といった消耗品に1300千円、打ち合わせのための旅費に110千円を予定している。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 434 ページ: 223-227
10.1016/j.bbrc.2013.03.045