研究課題
本研究では、cDNAディスプレイ法により、高い細胞膜透過性を有する新しいペプチドを創出する。新規な膜透過性ペプチドは、それらの構造と膜透過性の相関を明らかにし、有用物質の特異的な細胞内への輸送手段としての応用を図る。第一に、cDNAディスプレイ法により脂質膜と相互作用するペプチドの選別を行った。ランダムDNA配列を鋳型として、ペプチドとこれをコードするDNAの複合体を作り出し、標的物質にたいするアフィニティによる選別により結合性を持つペプチドを濃縮する。本研究では、膜透過性ペプチドの取得を目標に、脂質膜を固定した基板に対する吸着ペプチドを選別した。その結果、スクリーニングサイクルにより得られたDNA配列30~40クローンについてDNAシーケンサーによる配列解析を行ない、コードされるペプチド配列群を同定した。今後、疎水性・塩基性アミノ酸を含む配列について化学合成を行い、細胞膜透過性について検証を行う。第二に、ペプチドと細胞膜との相互作用解析に供せられる分析用光学系を開発した。細胞へのペプチドの透過効率を定量的に測定するには、蛍光自己相関分光法(FCS)が最も優れた方法である。しかし、組織化した細胞内部への透過効率を測定するためには、現在利用されている波長領域よりも長波長の励起光を使用する必要がある。そこで、光源として赤色レーザを用いた共焦点光学系を試作した。今後、この光学系を用い、液滴中の蛍光標識分子の拡散運動に起因する変動を測定し、自己相関解析を行うことで、細胞内の蛍光標識物質の局在と内部移行効率に関する情報を得る。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ペプチド探索による膜透過性配列候補の同定に加え、相互作用分析を目的とした蛍光自己相関分光法を測定原理とする機器試作を行った。これらの機能評価を最終年度に行い、目的を達成する予定である。
膜透過性アプタマーの機能評価のために単層培養あるいは3次元培養した細胞を組織モデルとして浸透効率を上記の共焦点光学デバイスにより測定し、細胞内部の蛍光ゆらぎの測定により細胞浸透性ペプチドアプタマーの浸透効率の評価を行う。ペプチドの周囲の環境は蛍光ゆらぎの自己相関解析により示される拡散時間の変化として求めることができる。細胞内部はペプチドが拡散しにくいため、拡散時間の値が大きくなることから移行量を求めることができる。この移行量を指標として、化学合成したペプチドの細胞膜透過性を検討する。
当該年度の本研究に関わる物品費は、研究協力者(共同開発企業)が試作のために部品購入をしているため発生しなかった。発生した次年度使用額は、分析機器試作に要する部品購入に充当する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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