研究課題/領域番号 |
24510322
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
吉見 立也 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 治療薬探索研究部, 研究員 (30277256)
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研究分担者 |
滝川 修 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 治療薬探索研究部, 研究室長 (70163342)
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キーワード | アルツハイマー病 / タウオパシー / タウ / PET / 診断薬 / 治療薬 |
研究概要 |
アルツハイマー病(AD)におけるタウ代謝異常を標的とした診断薬、及び代謝異常の抑制剤について、現時点で世界を見渡しても未だ臨床試験で有効な薬剤や療法は開発されていない。我々の目的であるタウを標的とした創薬スクリーニングシステムの開発を終えて、実際の化合物スクリーニングを開始した。 成果の具体的内容:東京大学創薬オープンイノベーションセンターより供与された創薬用低分子化合物ライブラリのコア化合物9600のうち1/3にあたる3090化合物のイオン解析を終えた。東京都健康長寿医療センター・ブレインバンクより供与された脳(AD脳、正常脳)より、多数の新鮮凍結脳切片を作成し、現在、MALDI-TOF/MS飛行時間型質量分析装置(質量顕微鏡)を用いたイメージング質量分析によってタウと化合物の共在を検出している。一方、凍結切片を自動で作製する装置について、ミクロトーム部分、切片の受け装置、専用ミクロトーム刃の3部分の開発がほぼ終了し、現在、組み立て及びプログラム開発を行っている。以上の各装置はデンソー製の医療用ロボットハンドによってシステム化され、脳切片の作成から、移動・化合物への浸漬作業を自動化する段階にある。 意義・重要性:本研究は、世界初のタウに特異的なPET標識化合物の創成、および治療薬創薬に向けての第一歩となると考えられ、たいへん意義深い。この研究の成果により、今後超高齢化社会を迎える日本の医療の発展、及び医療費の節約にも貢献できると考えられ、社会における重要性も高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記2点より、開発はほぼ順調であると考えられ、一部について特許出願の準備を行っている。 1.質量顕微鏡によるタウの検出条件の確立:共同研究により質量顕微鏡製造メーカー(島津製作所 質量分析研究所)よりMALDI-TOF型質量分析装置を貸与され、これを用いて、PIB、PBB3、FSBなどのPET化合物をポジティブコントロールとしたイメージング質量分析による解析の詳細な検出条件の決定を行った。また、化合物ライブラリのコア化合物9600のうち1/3にあたる3090化合物のイオン解析を終えており、今後半年間で9600化合物の解析を終える予定である。今後、イメージングによるタウと化合物の共在の判定を行うが、それを自動化し創薬システムとするプログラムについても開発予定である。 2.自動凍結組織切片作製装置の開発:ヒトAD脳新鮮凍結組織から2.4mm角の凍結組織小切片を作製する自動作製装置の開発を行っている。昨年度は、ミクロトーム部分の開発を大和光機に依頼し完成した。切片受け装置の開発をハートエレクトロニクス及び坂下工業に依頼済みであり、現在、組み立て及びプログラム開発に入っているがこの部分に関してだけは開発が遅れている。またデンソー製ロボットハンドを用いて、脳切片を特殊96 wellプレートの各wellに入れる操作及び、浸漬作業を自動で行うシステムについても㈱アイムに依頼しほぼ完成したが、プログラムを調整中である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までで、本研究にて開発中の大規模低分子化合物自動スクリーニングシステムは、個々の装置に関してはほぼ機能することが確認された。 本システムのうち自動凍結切片作製部分は、2.4mm角の小切片を載せるチップ、2.4mm*16枚チップスライド、凍結切片作製装置(ミクロトームと切片受け装置)、カムによるチップ分離装置、化合物添加用特殊96wellプレート、質量顕微鏡用96チップホルダー及び、チップの移動や各種動作を受け持つ医療用ロボットハンドシステムによって構成されるが、これらの装置の開発は、切片を作成する部分の自動化以外はほぼ終了した。今後、各部分の連携を行い全体の自動化をすることにより、大規模スクリーニング装置として完成する予定である。 一方、イメージング質量分析の手法に関しては、PIBやFSBなど既知のPET化合物において、ポジティブイメージング解析を終了したが、今後さらに多様な化合物に対応できるイメージ解析手法の開発を行う。これにより見出されたタウに親和性をもつ化合物に関しては、誘導体を合成するなどして、更に高い親和性をもつ化合物を探索し、創薬リード化合物とする。 当初の目的にあった新規ペプチドライブラリーに関しては、この研究費の期間中は創薬オープンイノベーションセンターより供給される低分子化合物ライブラリー20万種のスクリーニングに重きをおくこととし、開発を中止した。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では、初年度に画像解析等のシステムソフトウェア開発を行うためのワークステーションの購入申請を行ったが、これを後回しにして下記のスクリーニングのための個々の装置の開発を行っていた関係で、ワークステーション機器購入分の研究費が繰り越されている。また、前年度分のうち自動切片作製装置の自動化プログラムの開発が遅れ、そのための開発費が繰り越されたため次年度使用額が増加した。今後、全体のシステム連携のためのソフトウェアの開発状況に応じて早期に高性能ワークステーションを導入する予定であり、それを用いて画像解析システムの構築にも取りかかる予定である。 化合物の高速イメージスクリーニングシステムとして、個々の装置が完成しつつある段階であり、今後ロボットシステムによる連携を行うためにロボットハンドのプログラム開発が必要である。また、イメージング質量分析によって得られる大量の画像データを解析し親和性のある化合物を特定するという段階に進んでおり、病理データと質量分析データの比較解析を行うソフトウェアの開発を含むコンピュータ画像解析システムの開発が必要となる。これらの開発費を計上する。 一方でアルツハイマー病の診断薬、治療薬に関しては現在も他研究室において開発・治験を行っている化合物が存在することから、それらの開発状況を逐次確認しながら、共同研究または連携して研究を進める。そのため、積極的に学会に参加して情報収集を行うことが必要であり、そのための費用を計上すると共に、創薬リード化合物誘導体の合成のための費用を計上する。
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