研究実績の概要 |
北米原産のシグナルザリガニは、絶滅危惧種ニホンザリガニの駆逐や水草の摂食・破壊を介した湖沼生態系の安定平衡状態の変化を通じて、陸水生態系に甚大な生態系被害をもたらす。本研究では、日本のシグナルザリガニ侵入集団間で行動等の性質が異なることを仮説とし、1)侵入集団の攻撃性、外部形態、遺伝子型の特性、2)シグナルザリガニの攻撃性を説明する要因、3)危険度ランクを明らかにした。 遺伝解析より、摩周湖由来の集団が過去数十年の間に急速に分布を拡大しており、形態解析から侵入年代の新しい集団ほど鉗脚(鉗脚面積/頭胸甲長)が大きい傾向が認められた(rs=0.68, P<0.05)。さらに行動実験でも侵入年代が新しい集団ほど攻撃性が高かった。新しい侵入地では集団増殖率が高く、資源の奪い合いが起きるため攻撃性が高い個体が選択されたのかもしれない。 侵入年代とmtDNAのハプロタイプ数の間には負の相関が検出された(r=-0.58, P<0.05)。新しい集団では創始者効果あるいはボトルネックにより多様性が減少しているものと考えられる。一方、鉗脚と遺伝的多様性の有意な相関関係は認められなかったが。これは、侵入年代が新しくなるにつれ、遺伝的浮動で中立遺伝子の多様性が減少しているにもかかわらず、攻撃性といった適応形質には正の選択が働いているのかもしれない。 これまでのマイクロサテライトDNA解析からは、国内で急速に分布を拡大しているのは北海道摩周湖由来の侵入集団であることが明らかになっている(Azuma et al. 2011)。また、今回の実験で北海道摩周湖由来の侵入集団でも、侵入地への導入年代や同種の生息個体数によってシグナルザリガニの攻撃性が異なることが示された。以上を踏まえ、今後、北海道摩周湖由来の侵入年代の新しい集団の低密度管理や駆除を優先的に進めて行くことが望ましいと考えられる。
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