研究課題/領域番号 |
24510325
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
山根 京子 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (00405359)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遺伝資源調査 |
研究概要 |
申請者はこれまで、ワサビについて全国約150箇所で現地調査を行い、栽培、在来、野生ワサビとその近縁野生種ユリワサビが、どのように分布し、どのような遺伝的多様性を持つのか調査してきた。結果、野生集団や在来系統は、様々な要因により消失の危機があり、保全を急ぐ必要があることがわかった。ところが、栽培ワサビとその野生種の間での遺伝的攪乱が生じている可能性も示され、保全集団の選定を難しくしている。そこで本研究では、野生種の集団内をより詳細に調べ、栽培種による遺伝的攪乱の実態を明らかにするとともに、野生種の遺伝的組成や多様性にどのように影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした。 日本におけるワサビ属植物は、栽培ワサビを含むワサビと、野生でワサビに比べて小型のユリワサビの2種が存在している。近年、絶滅されたとされるオオユリワサビを、申請者は全国各地で確認している。とくに、ワサビとユリワサビは形態的に著しく異なるものの、同所的に存在する地点では、かなりの確率で中間的な形態の個体を発見することができる。そして、この中間的な形態をした個体こそ、オオユリワサビに酷似しており、オオユリワサビの成立は、ワサビとユリワサビの交雑を検証するうえでも無視できない。これらワサビ属の種間交雑の実態を明らかにするために、H24はワサビとユリワサビが同所的に存在している集団をさがした。その結果、高知県工石山(ワサビとユリワサビ)岐阜県塔ノ倉山(ワサビとユリワサビ)、徳島県一宇村(オオユリワサビとユリワサビ)、滋賀県伊吹山(ワサビとユリワサビ)、福井県九頭竜峡(オオユリワサビとワサビ)を重要調査地点として選定した。交雑による遺伝子流動等の実態把握のために形態観察とDNA分析をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査地点の絞込みに関しては、今年は花期が早く、一斉開花したため調査時期が各地で重なり、例年以上に困難であったにもかかわらず、全ての種の組み合わせが観察できる調査地点を選定することができた。しかしながら、明らかに交雑による中間個体であると思われる個体は少ないため、来年度も引き続き調査が必要である。現在、ワサビとユリワサビの交配実験も同時並行して行っており、F1個体の形態の確認を行いたいと考えている。 今回、調査した全ての集団の花の形態観察を行い。これまでできていなかった、集団内変異も調査した。また、個体内変異も調査することができた。全国各地のワサビ、ユリワサビ、オオユリワサビの花の形態データを蓄積することができたので、詳細に解析することで、地理的な分布を確認することができる。 また、本研究の目的として、保全策をたてる、という目標を掲げていたが、京都のポンポン山にて、鹿による食害で、ユリワサビが絶滅したかもしれないという連絡を受け、調査したが、やはり見つからなかった。後日確認したところ、網で囲った場所に、ユリワサビが少数個体ではあるが、いきのびているのを発見した。網で囲っていない場所ではほとんど見つけることができなかったことから、網をはるという行為が、まさに絶滅しかかっている植物を対象としては、かなり有効である可能性が示された。全国で鹿の被害で絶滅しつつある山野草については、ポンポン山の事例に基づき、今後どんどんおしすすめるべきであると考えている。 また、DNA解析に関してが、スケジュールに照らし合わせると遅れている。調査と交配のシーズンが終わったらすぐにでも本格的に実験に取り組みたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現地から収集した個体の維持を行っており、ユリワサビとワサビの交配実験も行っている。人工気象機を用いて実生からの育成を試み、形態観察を行う予定である。現地から収集した葉を用いてDNA抽出を行い、集団内の変異の実態を解明する。母系マーカーは申請者によって既に開発済みであるので、個体識別が可能なDNAマーカーを開発する。当初、AFLP法で行う予定であったが、より進化速度の速い、マイクロサテライトマーカーを開発したいと考えている。本マーカーを用いて、ユリワサビとワサビの間での遺伝子流動や遺伝子浸透の実態等を詳細に調査する。 さらに、ポンポン山でみられた、鹿よけの柵による個体群保全状況のモニタリングを実施し、個体群の遺伝的多様性の変動を追うことで、柵による効果を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度も引き続き現地調査を行う予定をしており、旅費を計上したいと考えている。また、秋の育種学会にも参加を予定しており、旅費が必要になる。 備品はほぼそろっているので、今年度は、DNA実験用の消耗品が経費の大半を占めることになると考えられる。 集団内変異については、新規のマイクロサテライトマーカーの開発を計画しており、塩基配列解析は外注しなければならないので、本解析費用が最もコストのかかる工程になるものと思われる。
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