研究概要 |
モンゴル南部のゴビ地域は長距離移動をおこなう大型野生動物が生息する保全上重要な地域であるが、大規模な鉱山開発が進行中であり、新たな鉄道・道路の建設が進められている。そこで、長距離移動をおこなう野生哺乳類モウコガゼルを対象として、鉄道・道路建設前の移動や生息地利用の実態を把握し、生息地選択要因や生息適地を明らかにし、生息地分断化による影響評価や野生動物用通路の建設候補地の提言をおこなう。大型動物の大移動は世界でもわずかな地域にしか残っていないため、本研究対象地は世界的にも保全上重要な地域であり、大規模開発前の野生動物の移動や生息地利用の実態の解明は、今しか研究できない緊急の課題である。さらに、生息地の分断化は野生動植物への気候変動の影響を増大させる可能性が高く、生物と環境の両面での広域の将来予測が求められている。 これまでに追跡してきた野生哺乳類モウコガゼルとアジアノロバの移動データや、モウコガゼルの遺伝子構造の地理的分化の解析を進めた。その結果、既存の鉄道・国境が両種の移動の障害であり、両種とも鉄道・国境付近の利用が冬期に多いことを示した(Ito et al. 2013a, PLoS ONE)。これは食物が少ない時期に鉄道・国境の障害効果が大きいことを意味し、鉄道・国境のフェンスの存在が野生動物の生存に影響を及ぼす可能性を示唆する。また、気象条件の年変動は、モウコガゼルの食物である植生量に空間的・時間的に影響を及ぼし、それに対応してガゼルは利用場所を年により大きく変えること示した(Ito et al. 2013b, J. Arid Environ.)。現時点では国際鉄道の両側でのガゼルの遺伝子構造の地理的分化は検出できなかった(Okada et al. 2012, Mong. J. Biol. Sci.)。
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