モンゴル南部における鉱山開発や鉄道建設が野生動物の大移動に及ぼす影響を評価することを目的として、対象地域の代表的な長距離移動動物であるモウコガゼルの移動の実態把握と生息適地の評価をおこなった。2013年9月にモンゴル南部ドルノゴビ県において、GPS+衛星電話システムを装着したモウコガゼル8頭について、8時間毎の位置データの約1年間の取得に成功した。 すべての個体を同一地点で捕獲したにもかかわらず、冬に100km以上東へ移動した個体と、年間を通して捕獲地点付近に滞在する個体が存在し、本地域でのモウコガゼル個体群は部分的季節移動をしている可能性が示唆された。 モウコガゼルの位置データと、地形、植生指数(NDVI)、積雪日数、街・国境からの距離等の環境データから、冬季と夏季のモウコガゼル生息適地地図を作成した。生息適地の場所と生息適地への影響が大きい変数は季節によって異なり、本地域のモウコガゼルの生息地利用の季節変化をよく説明した。 本研究での追跡個体は、鉄道の建設予定地から100km以上離れた地域しか利用しなかった。しかし、本地域では積雪日数の空間分布の年変動が大きく、生息適地の面積や場所も年によって変化することも示された。したがって、環境変動の大きい本調査地では、気象条件の年変動を考慮した、野生動物の広範囲の移動可能性を確保した保全対策の重要性が示唆された。
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