研究課題/領域番号 |
24510328
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
伊谷 行 高知大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (10403867)
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キーワード | 外来種 / 寄生虫 / エビヤドリムシ / アナジャコ / スナモグリ / クルマエビ / 宿主特異性 |
研究概要 |
現在、北米西海岸ではアナジャコ類の個体数が激減して、その共生者も絶滅に瀕しているが、その原因はアジアからの外来寄生者であるエビヤドリムシ科甲殻類Orthione griffenis の影響であることが明らかになってきた。日本でO. griffenisの生態を調査するとともに、アナジャコ類に寄生する他のエビヤドリムシ類の生態を調査し、なぜこの種が侵略的外来種となったかを明らかにする。さらに、クルマエビ類に寄生するエビヤドリムシ類を調査し、将来、外来寄生虫としてアメリカ海域へ侵略する危険性を検討する。本年度も、昨年度に続いて、エビヤドリムシ類Orthione griffenisの分布調査を行った。エビヤドリムシ類相の豊富な奄美大島での採集を試みたが、新たな標本を得ることはできなかったため、本種の分布についてまとめあげ論文の作成に着手した。エビヤドリムシ類の寄生生態の一般化を行うため、ヨコヤアナジャコUpogebia yokoyaiとコブシアナジャコUpogebia sakaiiが同所的に分布する土佐湾の干潟において、昨年度に引き続き両種の定期定量採集を続け、4年分のデータから3種のエビヤドリムシ類の生活史を明らかにした。着底期幼生であるクリプトニスクス幼生は、小型のアナジャコ類にのみ寄生しており、宿主利用のタイミングは宿主の着底期と一致することが明らかになった。有明海のニホンスナモグリの採集標本を調査した結果、2種のエビヤドリムシ類の寄生が確認され、やはり、宿主利用のタイミングは宿主の着底期と一致することが明らかになった。これらは、米国におけるO. griffenisの生態とはまったく異なっており、本種の着底に関する生態が侵略的外来種となった可能性が高い。さらに、エビヤドリムシ類が宿主の脱皮時にどのような適応的行動をとるのかをまとめ、論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、1)北米で侵略的外来種となっているエビヤドリムシ類Orthione griffenisの日本における分布と生態を確認すること、2)アナジャコ類に寄生する複数のエビヤドリムシ類で、生活史や生態を明らかにすること、3)比較のため、クルマエビ類に寄生するエビヤドリムシ類で、生活史や生態を明らかにすること、4)クリプトニスクス幼生に関する知見の収集であった。 1)に関しては、新たな高寄生率個体群は見つけられなかった。2)に関しては、昨年に引き続き調査を行い、3種のエビヤドリムシ類について、生活史を解明できたので、十分な成果であると考えている。3)に関しては、これまで採集していた標本をもとに、引き続き解析中である。4)に関しては、実験的にクリプトニスクス幼生を収集するまでもなく、標本調査により多量のサンプルを得ることができたので、十分な成果となった。新たに、ニホンスナモグリの有明海における個体群の標本調査でエビヤドリムシ類の生活し解明を行うことができたことは大きな成果であった。さらに、宿主の脱皮時のエビヤドリムシ類の戦略をまとめることができたのも成果である。これらの結果、エビヤドリムシ類の生活史の一般化をさらにすすめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにほぼ終了した、エビヤドリムシ類Orthione griffenisの日本における分布と生態に関する論文を完成させるとともに、アナジャコ類に寄生する他の複数種についての生活史と生態に関する論文を完成させる。昨年度新たに調査を行った、ニホンスナモグリの寄生者においても、十分な結果を得たので、論文作成に着手できる。クルマエビ類に寄生するエビヤドリムシ類は北米には分布しないため、将来的に侵略的外来種となる可能性があり、特に注目されるが、すでに解析中のデータより、その生活史を明らかにし、今後、これらが侵略的外来種となるかを検討する。また、昨年度、エビヤドリムシ類の着底期幼生を多数得ることができたため、クリプトニスクス幼生形態の記載を行う。追加標本が必要な場合には、雄を除去して現地で飼育することにより採集を試みる。米国のアナジャコ類Upogebia pugettensisでは進化的に、エビヤドリムシ類の付着を防ぐ第5胸脚によるクリーニングが発達していなかったため、侵略的外来種の影響を受けたことを作業仮説として平成26年度に2つの研究を行う。1つは日本産と米国産の複数のアナジャコ類における第5胸脚の形態比較であり、もう1つは同様のクリーニング行動の比較である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年時から2年時にかけて、米国の干潟の視察を行う予定であったが、すでに別の機会にカウンターパートのChapman博士が来日し、十分な研究打ち合わせをすることができた。そのため、それぞれ自国での研究を進めており、海外調査旅費を使用していない。一方、膨大なサンプルの処理のために学生謝金を予定より多めに使用し、差し引きとして、16万円程度の次年度使用額が生じた。 追加調査と論文取りまとめのために、本年度、米国への短期海外調査を行う予定である。
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