研究課題/領域番号 |
24510334
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
日野 輝明 名城大学, 農学部, 教授 (80212166)
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キーワード | 大台ヶ原 / ニホンジカ / ミヤコザサ / 栄養分析 / 糞分析 / ドライブウェイ |
研究概要 |
本研究では,環境の異なる場所や季節変化によって食性と個体数分布が変化する要因を明らかにするために,糞分析と栄養分析を行った. シカの食性中にササが占める割合は、ササ現存量が大きいほど、またササ群落に近いほど有意に大きかった。シカの個体数指標となる糞塊数もまた、ササ群落に近いほど有意に大きかった。ササ以外の植物が食性に占める割合は、ササとは逆に、ミヤコザサ現存量が少ないほど、あるいはミヤコザサ群落から遠いほど増加した。しかしながら、単子葉類草本が食性に占める割合については、ドライブウェイからの距離の効果が最も大きかった。統計的には有意ではなかったものの、単子葉類草本の現存量も食性に占める割合を増加させていた。このことから、ドライブウェイを中心に活動しているシカは、ドライブウェイの法面や路傍に生育しているイネ科(ウシノケグサ、ナガハグサ、コノカグサなど)やカヤツリグサ科(イトスゲなど)の単子葉類草本を主要な餌としていることが分かった。 双子葉類草本(広葉樹の葉を含む)は、ミヤコザサ群落およびドライブウェイから遠ざかるほど多く食べられていた。双子葉類草本の現存量や広葉樹の断面積合計とは関係がなかったことから、シカによって選択的に食べられたのではなく,ササを含む単子葉類が生育していない環境において機会的に食べていたと考えられた。栄養分析では、双子葉類草本は単子葉類草本に比べて、繊維分が少ない一方で脂肪分多かった。ルーメン胃内でセルロース分解を行うシカにとって、このような植物は餌としてあまり好まれないのであろう。針葉樹の葉と樹皮についても、ササ群落から遠ざかるほど食性に占める割合が高まっていた。大台ヶ原では、シカに食べられる樹皮のほとんどは針葉樹であるが、葉と同様に、植生に占める割合と針葉樹の量との間には関係がなかったことから、選択的に食べられたとは考えられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主要課題であるニホンジカが餌とする植物について,水分、粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分 、カロリー量などの栄養分析を予定通り実施した。昨年度に引き続いて,個体数と糞分析の調査を行い,生息環境との関係についての分析も予定通り行った。初年度に行う予定であったシカの採食量の調査が未実施であるものの,他の調査については予定通り実施されていることから,当初の計画に沿っておおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
未実施であるシカの採食量の調査をおこなう。最終年度であるため,3年分のデータに基づいて、シカの個体数分布と食性、植物資源の現存量や採食量および栄養的な質との対応関係、異なる植物資源間の相補的な関係などを明らかにする。この解析に基づいて、個体あたりの植物資源の量と質を場所と季節ごとに求めることで、植生条件の異なる区域間のシカの個体数分布と季節変化が、個体あたりの植物資源の量と質が場所間で等しくなる「理想自由分布」に従っているかを検証する。この検証結果に基づいて、東西間や林内と林縁との間で植生条件の異なる大台ケ原における広域的なシカの植物資源利用のメカニズムを解明する。さらに、得られた解析結果をもとに、植生条件に応じたシカの個体数調整や目標頭数に応じた植生管理(例えば、主要食性であるミヤコザサの刈り取りやドライブウェイ沿いの法面雑草の管理など)について、ゾーニングの提案を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査旅費を同じ場所で行っている別の予算で支出したこと,および年度末に予定していた学会参加が所用により参加できなかったため 今年度の残額については,データ分析に必要な消耗品,成果発表のための論文英文校閲費や学会参加のための旅費に使用する
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