研究課題/領域番号 |
24510336
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田原 史起 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20308563)
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キーワード | 国際研究者交流 / 中国 |
研究概要 |
平成25年度は二つの新規調査地での現地調査に集中した。第一に, 7月に貴州省晴隆県のF村を調査対象村として再設定し,一週間の調査を実施した。同村には2010年にすでに一度,訪問しており,三年ぶり二度目の調査を行うことで,三年来の変化も観察することができた。第二に,12月および3月の二度にわたり,河南省新野県のZ村を訪問し,現地調査を行った。前年度の調査村は現地公安当局の介入などで放棄せざるを得なかったものの,Z村も同じ新野県内に属する村であり,前年の予備調査の結果は無駄にはならなかった。 両調査地の観察により得られた初歩的な結論は以下の通りである。第一に,河南の調査地は地形が平らであり,交通の便が非常に良く,近年になって急速に市場経済が浸透しており,農村ビジネスの展開や農家経済の拡大がみられる。ここから,行政村(村民委員会)の財源が非常に限定的であるという条件下で,農村ビジネスの成功者たちに寄付による道路補修など,市場による「私」の要素が基層ガバナンスに一定の貢献を行っている。第二に,貴州の調査地は河南とは対照的に,交通のきわめて不便な山岳地帯にあり,村内部の資源で基層ガバナンスを支えることができない。このため,村と外部をつなぐ成功者のコネクションにより,「公」の資源を動員する方法でインフラや教育など一部の事業は達成されていた。第三に,以上の「私」と「公」を基層ガバナンスに引き込む「ハブ」となっている要素は,結局のところ,故郷に利益をもたらそうとする村出身の成功者・他出者たちの社会関係資本(=「共」)である。第四に,基層ガバナンスのなかで村の正規のリーダーたち(村民委員会・村党支部委員)らの働きはかなり「地味な」ものではあるが,「私」と「公」の資源を基層社会に落とし込み,配分を行う際には無視できない役割を果たしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,農村社会におけるよりよいガバナンス構築に向けての,「公」(政府=再配分原理),「私」(市場=交換原理),「共」(コミュニティ=互酬性原理)の三領域にまたがる資源活用の可能性を提示することにある。この研究目的を達成するために,中国の内陸部(中部および西部)に属する江西,甘粛,山西,貴州の4省において集中的な村落調査を実施するとともに,ガバナンスにおいて「公」「共」「私」それぞれの資源が果たしうる役割と交錯のパターンについて,内陸的な文脈における一つの理論的展望を示す。 本年度においては,江西,甘粛に続く新しい二つの調査村─河南および貴州─での調査を軌道に乗せ,まだ十分ではないもののデータの蓄積を開始できたことは評価できる。もっとも,河南の調査地は外国人(とりわけ日本人)であるという身分を明かすことができないまま,また村に住みこむのではなく鎮政府所在地からの「通い」で調査を展開せざるを得ないという困難がある。また貴州の調査地も調査期間が十分でないこともあり,データの蓄積はまだまだこれからが正念場である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の達成度にかんがみ,26年度は引き続き新規調査地での調査を深めるとともに,旧来の両調査地を含めた内陸四村の比較分析に進んでいく。第一に,貴州については8月に調査を実施する予定である。第二に,調査時期は未定であるが秋以降には河南で農村調査を行う。第三に,旧調査地の一つ,甘粛については10月に追跡調査を実施,第四に,もう一つの旧調査地の江西で2月に調査を行う。第五に,これらの合間をぬって,中国農村研究にかんして蓄積されている過去のモノグラフのレビューを行い,自らの調査データを補強しつつ,実際の比較分析に着手する。
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