研究課題/領域番号 |
24510337
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際協力 / 地域協力 / 地方政府 / ベトナム / 中国 |
研究概要 |
中国外交部档案館において,1954年から65年を範囲とした広西壮族自治区人民政府とベトナム側のクアンニン省・ランソン省・カオバン省各人民委員会との間の地域協力に関する文献資料調査を通じて,両国の地方政府が早い段階(1954年)から国境貿易の管理,国境地帯の治安維持(犯人引渡など),国境地帯住民の移動管理等をめぐって実務協議を開始していたこと,地方政府が対ベトナム経済援助において重要な役割を果たしていたことが明らかとなった。その後,ベトナム社会科学院中国研究所とこれらの資料を分析した結果,このような実務的な協力関係,定期協議は両国関係が悪化した時期を除けば,現在の地方政府間でも継承されていることを確認した。ただし,現在の地方政府間関係との大きな差異は,「回廊」という視点の欠落である。つまり,現在の広西自治区政府は「南寧=シンガポール回廊」構想が示すように,ベトナムの先に東南アジアを視野に入れた広域的な戦略をもっている。これに対し,1950年代から60年代にかけての地方政府間関係は,地方に限定された関係であった。とはいえ,ベトナム戦争中,ソ連・東欧から鉄道で搬送されてきた支援物資(軍事・経済)が順調にベトナム領内に運ばれず,国境の憑祥に滞貨状態になっていたことを示す資料は,回廊・結節点としての広西・ランソンの位置を如実に示している(ファイル番号106-01316-01,109-03967-04)。また,2012年9月にランソン省人民委員会を訪問した時,中国側がベトナムを経由して入ってくる第三国からの冷凍品の輸入を中止したため,滞貨が発生し,その処理にランソン省が対応しているとの情報を入手した。このように,両国にとって「外界」への結節点としての広西自治区あるいはランソン省の位置に着目して地方政府間関係を考察する必要性があるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は,1954年から1965年にかけて作成された,広西壮族自治区とランソン省,クアンニン省,カオバン省の地域協力関係に関する中国側文書の調査研究を行った。その内容は国境貿易の管理,密輸取締,犯人引渡,国境警備,経済援助,治安,国境地帯住民の越境移動(親戚訪問など),債務問題,ベトナムから広西に帰還した華僑の処遇,国境地帯住民間のトラブル(国境碑の位置や飛地をめぐる紛争)への対処,ベトナム戦争への対応等多岐にわたっており,これらの課題をめぐり,地方政府間で早い時期から緊密な実務協議が行われ,各種紛争を拡大させず穏便に処理するための方途を模索していたことが明らかになった。その中で,中国側資料から把握することのできた事実,すなわち,広西壮族自治区政府が国境地帯における紛争の処理を中央政府から委任されていた点や,対ベトナム援助に関しても地方枠ともいうべきカテゴリーを保持していた点は,他国と隣接していない内陸部の地方政府にはみられない特殊性として指摘することができる。また,対ベトナム援助に関しては中央政府に比べ,広西壮族自治区の方がベトナム側の要求に応えようと努力していた点で両者間に温度差も存在していたこともうかがえる。(以上中国外交部档案館所蔵資料ファイル番号106-00442-02及び106-00863-03を参照。) 以上のように本研究の全体計画に照らして,広西とランソン省・クアンニン省・カオバン省という限定された地方政府関係において解明すべき目的は基本的に達成されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果に加え,本研究を精緻なものにするとともに,その客観性を高めるために以下の二点に注意しながら研究を推進する必要がある。 (1)中国外交部档案館所蔵資料はある時点における地方政府間関係について詳細な内容を把握するには十分であるが,通時的にみた地方政府間関係の変容については,研究代表者による分析に際して,地方政府が出版している地方史や外事志などの文献をも参照した方がよいと思われる。当然それらの文献は,出版された時点の中国の党や政府の観点を反映しているわけだが,その点を慎重に扱えば本研究を補強することができる。ただし,文献の入手は困難であると考えられるため,北京,南寧,昆明などにある国家や省の図書館での閲覧から着手することになるであろう。 (2)本研究の客観性を確保するためには,中国側の資料のみならずベトナム側資料の開拓にも努める必要がある。代表者は2012年度にハノイのベトナム国家第三文書館において,目録を精査し,両国の協力関係に関する文書が所蔵されていることを確認している。今後はその閲覧がどの程度許可されるかわからないが,可能な限りベトナム側の文献資料調査にも努めていく。ベトナムではさらに,文書資料の少なさを補うため,ランソン省,クアンニン省,ラオカイ省などで,かつて人民委員会(地方政府)で中国との対応にあたっていた人間を対象にインタビューを行い,中国側資料の正確性を確認していく。 なお,本研究の実施において重要な位置を占める中国外交部档案館に関して,周辺国との領土問題のためか,閲覧制限の導入や,すでに公開されている資料を非公開にするなどの可能性があることが指摘されている。これに関しては情報収集に努め,本研究の実施に支障をきたさないように早めに対処していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の当初の配分予定額100万円に,前年度の繰越金約16万8000円を加えた予算を以下のように使用する予定である。繰越金が生じた理由は,当初2012年12月末に中国外交部档案館における文献資料調査を予定していたところ,本務のために渡航を見合わせざるをえなくなり,さらに年度末までに延期して実施するための日程が確保できなかったことによる。本年度も基本的には前年度と同様に,多くの部分をベトナムと中国における文献資料調査及び現地調査に充当する。具体的にはベトナム(ハノイ)と中国(北京)への海外渡航のための旅費として76万円(渡航期間21日×2回分),現地の情報提供者・知識提供者への謝金支払を主たる目的に人件費・謝金として10万円,ベトナムでの現地調査,特にハノイから中国との国境地帯各省(ラオカイ省・ランソン省・クアンニン省)への往復に際しての自動車借上げ代として10万円をそれぞれ計上する。また,物品購入としては①広西壮族自治区,雲南省に関する中国語の図書(特に地方史を記述したもの)の購入代金(12万円)②プリンターの購入代金(5万円)③各種記録媒体の購入代金(3万円)として20万円を計上する。
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