研究課題/領域番号 |
24510343
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 初梅 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (20609573)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 台湾 / 日本統治時代 / 学校 / 集合的記憶 / 歴史 |
研究概要 |
本研究は植民地時代という「過去」の受容とその背後にある問題を、学校という場、校史室という具体的な施設を取り上げて台湾社会の実態を実証的に解明していくことを目的としている。申請書に記載したように、とくに重点を置いて解明しようとしているのは、以下の三点である。A)学校創立記念行事運営の傾向及び植民地記憶化の実態を解明すること。B)校史室における展示品の選別作業のプロセスを解明すること。C)植民地記憶を持続させる要因を明らかにすること。 そのため、平成24年度において、研究代表者・林は台北市行政地域内の国公立の学校例を中心に調査を行った。連携研究者・所澤は、オーラルヒストリー採訪の方法によって日本語世代の戦前と戦後の連続する経験を聞き取った。 現時点、次のことが明らかになった。①現台北市内に60校ある植民地時代創設の学校の創立記念行事の多くには、その挙行を通して戦前からの連続性を取り戻そうとする動きが見られ、植民地時代の「過去」「遺構」を自分たちの固有文化として共有しようとしている。②植民地記憶を持続させてきた要因の一つに戦前と戦後に跨った「学校」という場の存在がある。③同窓会(日台双方参与)の存在が、経験者の記憶を維持させるとともに、若い世代へ記憶を継承させている。④植民地時代に形成された各人の能力、学歴、資格が戦後社会で有効に機能したため、それを取得した経緯を思い出す機会、語る機会が多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「学校という記憶の場―植民地台湾の時代からの連続性に注目して」は研究代表者・林初梅による研究成果の1つである。論文の中に述べられたことは、台北市に限られているが、上記研究目的のAとBの二点に相応しい調査結果だといえよう。 「社会的リーダー階層と台北高等学校」は連携研究者・所澤潤による研究成果の1つである。所澤の研究は個々の事例に即しての調査であるが、学歴が研究目的のC(植民地記憶を持続させる要因)を解明する内容である。そのほか、未発表の音声資料も多数採集しており、目下文字化に着手しているところである。 すでに上記のような成果が上がっており、進捗状況は当初計画したとおり、概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、昨年度の研究成果を踏まえ、①引き続き台湾での調査を行うとともに、②国際研究集会を行う。①は、地域性を解明するため、台南市、台中市も調査する予定であるが、とくに校史室における展示品の選別作業のプロセスに絞ろうと考えている。選別作業における取捨選択の判断の様子は、90年代以降の台湾社会における植民地記憶の表象を分析する有力な手立てである。また、②については日台双方の研究協力者や専門家を招いて国際研究集会を開催することを計画している。学校という場に限らず、関連する研究の発表・討議を通して、より一層の成果が上がることが期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は主に補充調査の旅費、台湾側研究者来日の旅費、日本側研究者への旅費と謝金に充てる。研究者間の意見交流の場を設けることで、より活発な議論が起こり、研究が深まると期待できる。
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