19世紀末からグアム島を統治していたアメリカ連邦政府は、1950年、ここに米軍基地を発足させた。歴史的にこの島は海軍省(第二次世界大戦後は国防総省)の管轄下におかれていたが、連邦議会は基地の発足とともに島の管轄権を基地内外で分け、基地内を国防総省、基地外を内務省の管轄下においた。基地外は内務省のもとで島政府が統治を行ってきた。基地内では本土アメリカ人が本土並みの生活が送れるように十分なインフラが整備される一方で、基地外のインフラは不十分であり、基地内外の住民の生活環境基準の格差は深刻であった。 連邦政府は長らくグアム島における基地内外の生活環境基準の格差に関心を寄せることはなかったが、2010年の中間選挙を機に、この問題へ大きな関心を寄せるようになった。本研究は、このような変化の背景には、近年、志願兵制のもとで軍人の確保が困難となっているため、連邦政府がナショナル・ガードと呼ばれる州政府の管轄下にある民兵の確保を重視するようになったことがあることを指摘した。一般市民である民兵は、平時には州内の警備活動に従事するが、緊急時には連邦政府の要請に応じて従軍する。このため、軍人の志願者が減少している現在、戦力となる民兵の役割が重要性を増してきているのである。この点グアム島は民兵の志願率が高く、連邦政府にとって戦力確保にとって重要な場所だ。グアム島の基地外の住民の低い生活環境基準が、国防総省をはじめとする連邦政府の重大な関心事となった背景には、以上のような国家安全保障政策に直結する状況がある。 本研究では、不平等な水資源へのアクセスの実態については具体的に明らかにすることができた。しかし基地内の情報を入手することが困難なこともあり、格差の全貌を解明するにはいたらなかった。
|