研究課題/領域番号 |
24510354
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研究機関 | 藤女子大学 |
研究代表者 |
金戸 幸子 藤女子大学, 文学部, 専任講師 (60535699)
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キーワード | 越境結婚 / 台湾 / 東アジア / 国民国家 / 地域秩序 / 多文化主義 / エスニシティ / ジェンダー |
研究概要 |
台湾での継続調査に加え、台湾への越境移住を促すネットワークや送り出し国側の状況を把握するために、東南アジアでの調査を実施した。 (1)台湾での継続調査 新移民をめぐる動向・課題および新移民に対する支援状況を把握するために、①政府機関1ヶ所(台北市南港区新移民会館)、②婚姻移民支援NPO3ヶ所(賽珍珠基金会、伊甸基金会、南洋台湾姉妹会美濃オフィス)、③中華民国籍以外の母親を持つ子どもたちの約80%がすでに初等教育段階に入っていることから、小学校3校(台北市萬華区新和国小、新店区大豊国民小学、台南市白河区白河国小)での調査を実施した。このほか、台北日本人学校と台北日本語授業校を訪問した。以上の調査から、政府、婚姻移民支援NPO、学校教育現場のいずれにおいても、全体として新移民の人材育成に努力し、今後の台湾を担う、あるいは台湾と出身国・地域(東南アジアなど)との架け橋になる人材を育てる方向に動いていることが確認できた。 (2)東南アジア(タイ・ベトナム)での調査 台湾への越境移動を促すネットワークの実態や、移住の背景にある送り出し国の社会・経済・文化的状況を把握するために、タイとベトナムでの調査を実施した。メコンデルタの華人系集落でのフィールド調査のほか、ベトナム国家大学ホーチミン市人文社会科学大学とベトナム社会科学院南部社会科学院における研究会での意見交換、台湾人との国際結婚により離婚した母親が連れ帰る児童を多く受け入れているベトナムの中華系小学校(ヴィンロン市朕華越小学校)への訪問調査などを実施した。その結果、台湾への移住を促す背景に、華人ネットワークの奥深さと台湾人による仲介業の存在が再確認されたほか、そうした背景もあり国内移動よりも国際移動の方が容易であること、結婚に対する強い年齢規範の存在、自国の男性との婚姻よりも外国人男性との婚姻の方が好まれる傾向にあることなどが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、台湾の移民政策について、移民・移住者、受容者、仲介者などの多様なアクター間の連関に注目する「編入モード」概念に基づいて分析し、そこから台湾の多文化主義の展開や「国民国家」の行方について考察することを目的としたものであった。 この研究目的にアプローチするために、本研究計画においては、(1)台湾における移民の「編入モード」と台湾多文化主義の特徴の把握、(2)東アジア、東南アジアを中心とするグローバルなジェンダー、エスニシティ、社会階層をめぐるハイエラルヒーの台湾というローカルな文脈における再編強化が台湾のナショナル・アイデンティティの変容の与える作用や影響の解明、(3)それが台湾の「国民国家」と東アジア地域秩序の再編に与える影響の展望、の主に3つの研究課題を具体的に設定した。 そこで平成25年度は、さらなる現地調査により(1)の研究調査を重点的に進めた。その結果、台湾で婚姻移民支援を行う主要なNPOについてはほぼ全て回ることができ、大学で社会福祉やソーシャルワークを学んだ台湾人学生たちが組織の中核を担うスタッフとして育つようになっていることが確認できた。今日、戒厳令解除(1987年)以降に出生し、「族群」(エスニック・グループ)対立の激しかった時代を経験していない若い世代がこうした移民支援の空間に加わるようになっている。この空間は、今後、従来の「族群」(エスニック・グループ)対立の枠組みを超えた多様で対話可能な言説空間を醸成していく可能性をも内包しており、今後の台湾のナショナル・アイデンティティの行方にも変化を与えていくことが予想される。 このように、(1)の研究課題の更なる進化はもとより、最終年度に向けて(2)と(3)の検討整理につなげていく上での重要な手がかりをつかむことができた。このことから、当初の研究計画はおおむね達成できていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.調査結果を踏まえた理論的な整理と補充調査 (1)平成26年度は、平成24年度・25年度に取り組んだ台湾やベトナム等の現地調査で得た知見を踏まえて、理論的な検討整理を行う。また、(2)調査結果からの知見を取りまとめていく段階で、現地調査を必要に応じて実施する。とくに中国については、過去2年度にわたる調査から、とりわけ台湾北部と中国大陸沿岸都市部との生活空間の一体化も進んでいる様子も看取されている。そこで補充調査に関しては、平成26年度は、①中国における台湾人コミュニティの形成とその展開、中国人の台湾への結婚移住を促すネットワークの実態や中国側の状況についての調査、②東アジアに向かう人の移動の背後にある華人ネットワークの役割などについて補充調査を行う。 2.「多様性受容」アンケート調査の実施と集計・分析 これまでの調査から、政府、婚姻移民支援NPO、学校教育現場のいずれにおいても、全体として新移民の人材育成に努力し、今後の台湾を担う、あるいは台湾と出身国・地域との架け橋になる人材を育てる方向に動いていることが確認できたが、実際に住民の意識はどのようなものなのか。その検討に役立てるために、次世代の担い手となる若年層から中堅世代を対象に、主に外国籍住民に対する意識・態度を窺い知ることができるような社会意識についてアンケート調査を実施する。これにより、台湾のナショナル・アイデンティティの実態や変容の一端を明らかにする。 3.以上の成果を踏まえ、台湾の越境結婚をめぐって繰り広げられるさまざまな展開が、台湾という「国民国家」および東アジアの地域秩序の変容にいかなるインパクトや影響を与えていくのか、その展望について考察を深める。また、提言を含む報告書をまとめ、広く関係者に配布・公開するとともに、学会報告等を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度への繰越額が生じた理由については、主に次の二つの理由による。一つは、現地研究協力者側の事情や、アンケートの実施に向けての詳細な調査項目の策定に予想より時間がかかったことなどから、アンケート調査の実施を平成26年度に見送ったことである。二つ目は、研究代表者の急病により、平成25年度に予定していた中国での現地調査を延期せざるを得なかったという経緯があったためである。これらはいずれも、平成26年度に実施する予定である。 (1)「物品費」については、平成26年度は主にアンケート作成実施関連機器・ソフトの購入や、成果の取りまとめにあたって生じる書籍類の購入に充てる予定である。 (2)「旅費」については、主に台湾での補充調査の遂行のほか、今日の台湾への最大の越境移住者送出地域である中国での調査、また台湾をはじめ東アジアに向かう人の移動の背後にある華人ネットワークの役割などについての補充調査にかかる費用に充てる予定である。また、本研究計画実施最終年度にあたり、成果の発信・公表に向けて、学会等での発表にかかる経費の捻出も予定している。 (3)「人件費・謝金」については、海外調査の際の現地協力者や通訳補助者への謝金、研究データの取りまとめにかかる研究協力者への謝金のほか、台湾住民を対象としたアンケート調査実施にかかる費用に充当する予定である。
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