研究課題/領域番号 |
24510357
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
石川 智士 総合地球環境学研究所, 研究部, 准教授 (40433908)
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研究分担者 |
堀 美菜 高知大学, 教育研究部総合科学系, 講師 (60582476)
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キーワード | トンレサップ湖 / 漁業制度改革 / 漁業への影響 / カンボジア政府水産局 |
研究概要 |
カンボジアの区画漁業権(ロット)の停止に伴う地域への影響を調べるため、昨年度に引き続き11月と3月に現地調査を行った。今年度は、昨年実施された漁業法の改革について、特に漁具の規制と保護区の設置状況について情報収集を行った。また、大規模漁具の使用禁止に関連して、水質の変化についても現地調査と標本収集および化学分析を実施した。 今年度の調査で、漁場および保護区の設定はすでに終了しており、トンレサップ湖の新たな海面区別に関する地図情報を入手した。漁具については、昨年度からの大きな変更はないものの、昨年度は禁止されていた設置型漁具が、いくつかの漁業者コミュニティーからの要請を受けて、政府水産局が使用を一時的に許可する措置をとったことが分かった。また、湖北部の区画漁業権エリアは、当初の情報とは異なり、すべてが保護区として設定され、地元漁業者コミュニティーに新たな漁場が付与されることはなかったことが分かった。また、湖南部のKampong Chhnang州の漁業者コミュニティーには、新たな漁場が付与されたものの、実際には、居住地から遠く、漁場としての利用価値がないなど、漁場区分の見直しに関しては、苦情が多く聞かれた。同時に、漁業者コミュニティーによる大規模漁具の利用に対する要請が各地で起きていることが分かった。 小規模漁業の漁獲量ならびに漁獲物の種組成については、大きな変化は認められなかった。また、昨年度に収集したトンレサップ湖流入河川水について、52元素の化学分析を行った結果、雨季と乾季で濃度の変化はあるものの、一部の地域でアルミニウムおよび鉄の濃度が日本の安全基準よりも高く、局所的な化学汚染が生じていることが分かった。また、アオコなどの富栄養化も北部の一部で認められた。今後、ロット停止と水質悪化の関係性を調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カンボジア政府による漁業制度の改革に関しては、漁場および保護区の設置状況、漁具区分について、情報を収集できた。住民の対応として、湖北部のSiem Reap州、Battambang州、南部のKampong Thom州、Kampong Chhnang州の漁業者コミュニティーからの2年にわたるインタビュー調査が実施できた。トンレサップ湖流入河川の雨季乾季における水質サンプルを入手し、分析できた。アオコなど富栄養化に関する情報を収集できた。カンボジア北部と南部から、主要漁獲物の標本収集ができた。 これらの成果は、平成26年3月に開催された日本水産学会春季大会において、「カンボジア王国トンレサップ湖流入河川水の栄養塩および微量元素」ならびに「カンボジア王国トンレサープ湖における第二次漁業改革と中規模漁業への影響」と題して、口頭発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後漁具区分の見直しや運用の見直しなどが生じる可能性についてもカンボジア水産局ならびに漁業者コミュニティーから入手しており、その動向について、政府および住民組織の両面へ調査を継続する。特に、漁具の規制について、漁業者組織がどのような行動を起こすのか、それに対し、政府は、どのように対応するのか、それによって新たな漁業法や制度が変化するかを詳細に調べる。また、これまでに入手した漁獲物サンプルについて生物学的・遺伝学的分析を進め、漁業資源構造の変化や回遊現象への影響などを調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では、現地調査時に通訳兼調査補助に関して謝金を支払う予定にしていたが、カンボジア政府水産局の職員が、研究に協力してくれることとなり、謝金支払が必要なくなったために、残金が発生した。 今後も、協力関係を維持しつつ、研究の実施に当たる。 繰り越しとなった助成金については、翌年度分として請求した助成金と合わせ、現地への旅費として使用する。特に最終年度となることから、漁業制度の大規模改革が地域住民の生活に与える影響を、社会的および生業的側面からとらえることと継続するとともに、健康的側面や環境への影響を含めて情報を収集し、総合的な影響調査へと研究対象を拡張する予定である。
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