カンボジア王国トンレサップ湖における区画漁業権(ロット)の停止に伴い、カンボジア国内では、漁業省が中心となって、海面区画の再整理事業が進められてきた。この新たな区画整理事業では、トンレサップ湖面は、コミュニティー漁業区画と保護区とに分けられることとなった。このコミュニティー漁業の設定については、半農半漁の住民からはおおむね好意的な反応が得られていることが分かった。一方で、漁業を主な生業としている住民の一部では、以前より漁業可能なエリアが減少する、もしくは、漁場が漁村から離れたところに設定されるなどの不満が聞こえてきた。一方で、コミュニティー漁業を行う漁業者コミュニティーは、近隣の保護区の監視が義務づけられており、これらについては、コミュニティーメンバー全員が担当するわけではなく、コミュニティーのリーダーや中心メンバーが、個人的負担にて実施している現状が分かってきた。保護政策自体に反対している人は少ないことから、監視のコスト配分をどのようにしてゆくのかが、今後の課題と思われる。 トンレサップ湖内並びに流入河川に設定した25の調査地点から水と生物を採集し、元素分析と安定同位体分析を実施することで、地点間ならびに雨季・乾季間での水質の変化を検証したところ、水質変化とロット制度停止の関係性については、具体的な関係性は認められなかった。しかし、かつて局所的にしか報告されていなかった富栄養化やアオコの発生は、湖全体へとリスクが拡大していることが示された。 今後、漁業資源に加え、水質や治水に関してもコミュニティーの参加が重要となることが示された。その解決策としては、コミュニティー活動をさせる収入源を、義務と共にコミュニティーへ供与することが望ましく、定置漁具やエコツーリズムにその可能性があることが分かった。
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