研究課題/領域番号 |
24510359
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
矢野 久美子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (70308394)
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研究分担者 |
金 惠信 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (30448948)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ディアスポラ ドイツ / アート ドイツ 韓国 / 移民 ドイツ / 女性 ドイツ 韓国 / 政治社会 ドイツ 韓国 |
研究概要 |
本研究は、一九六〇年代から七〇年代に当時の西ドイツと大韓民国の政治協定により看護婦として国策的にドイツに送られた韓国人女性の体験を、a.政治と身体、b.移住とアートという二つの観点から調査・考察することを目的としている。これらの女性たちは、西ドイツの経済状況の悪化により韓国に送還されようとした際、署名活動などによって滞在権を獲得し、その後自分たちの経験をアートなどをつうじて表現しはじめた。本研究は彼女たちの看護師としての身体経験、異文化体験、政治への応答、その後の活動を追跡し、典型例であるハンブルク在住の韓国人女性画家ソン・ヒョンソクの生涯と作品を手がかりとして、①ドイツにおけるディアスポラ・アジア女性労働者の体験を探り、②ドイツの政治文化史にジェンダーに関わる新たな領域を開くものである。 平成24年度は、取り組むべき問題の基本的な枠組みの特定を行った。韓国人看護婦派遣事業に関する文献調査のほか、元看護師女性たちの表現に関して、すでにドイツおよび韓国で公刊されている文書の日本語への部分的翻訳を、ドイツ語は矢野が、韓国語は金が行った。また、本研究の二つの観点である「政治と身体」および「移住とアート」に関しては、福岡アジア美術館・沖縄県立美術館・栃木県立美術館・三重県立美術館による共同企画展「アジアをつなぐー境界を生きる女たち 1984-2012」等への関連行事に参加し、アジア女性アーティストへのインタヴューを行った。さらには、ドイツで第一回目の共同研究調査を行い、ベルリンでは韓国人元看護師女性たちに当研究の説明を行い導入的なインタビューを行ったほか、今後の本格的な調査協力依頼と打ち合わせをした。ハンブルクではソン・ヒョンソク氏のアトリエを訪れ、彼女の経験と表現について本格的な聞き取りを始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで研究の目的はおおむね順調に進めてきたと評価できる。理由は以下の通りである。 立ち上がり段階の年度計画として、矢野と金は数度にわたる研究会を行った。相互の研究状況の報告や本研究の方法の確認など、具体的な議論を繰り返し、取り組むべき問題の基本的な枠組みの特定を行った。 矢野はドイツで出された韓国人元看護師女性たちのzuhauseという論集を翻訳するなど研究を進めた。金は企画展『アジアをつなぐー境界を生きる女性たち1984-2012』の展示であるソン・ヒョンソク氏の作品wozuhausの字幕翻訳など行うほかディアスポラ・アートの研究を進めた。 共同でアジアの女性アーティストをめぐる企画展に参加し、企画者やアーティストにインタヴューを行うことによって、政治、身体、女性、アートという本研究の観点の意義を議論した。 ドイツへの第一回目の調査は実り多いものだったと言える。ベルリン在住の元看護師女性たちとの詳しい打ち合わせ、ハンブルクでソン・ヒョンソク氏への本格聞き取りを始めるなど、当事者から本研究への理解と協力を得ることができた。調査後、矢野と金はふりかえりの研究会を行い、現在までの調査・研究を整理するとともに今後の計画を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本格的にベルリン、ポツダム、ハンブルク在住の韓国人元看護師女性たちの個別的な聞き取り調査を進める。そのために必要な情報を彼女たちがアクセス可能な韓国語およびドイツ語で十分に準備した上で、ドイツに一回、彼女たちの出身地である韓国に一回、実際の調査旅行を行う。 ソン・ヒョンスク氏の作品分析やインタヴューを引き続き進めるとともに、すでに活字や作品となっている他の体験者たちの手記やさまざまな自己表現を調査する。関連資料などの収集・読解も進める。 今後のドイツでの聞き取りの際には、研究協力者であるトリア大学のレナーテ・ヤシュケ氏と連携しつつ進める。 この研究においてはドイツのなかの自己と他者の問題、ドイツのなかのディアスポラ、ドイツの文脈のなかでのアジア女性たちの自己表現がさらなる焦点となるからである。そのためにトリア大学での打ち合わせのほか、ドイツ語での聞き取りの際にもヤシュケ氏の協力を得ながら進める。 必要に応じて、当該問題などに関連する知見などを提供することのできる研究者を招いたり、われわれの研究成果を整理したりするための定期的な研究会を開催する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、ドイツおよび韓国での研究協力者への謝礼が発生しなかった。また、定期的な研究ワークショップはおもに矢野と金が基礎的作業をおこなったものであったため、ドイツ現代史、美術史、移民論の専門家を招くことができなかった。これらの経緯により、平成24年度の研究費の未使用分が発生した。次年度ではこの点に留意し、共同研究の裾野を広げるために研究費を有効に使用する予定である。具体的には以下のことを予定している。 ドイツおよび韓国への調査研究のための旅費(矢野および金)を計上している。ドイツでは、トリア大学、ベルリン、ポツダム、ハンブルクで研究・調査を行う。韓国ではソウルを中心として調査を行う。 ドイツの研究協力者であるレナーテ・ヤシュケ氏のベルリンおよびハンブルクへの旅費および謝礼、研究対象者である韓国人元看護師女性たちへのドイツでの研究会での報告に対する謝礼を計上している。 国内での定期的研究会のための研究者への謝礼や旅費を計上している。 聞き取り調査に必要な機器、研究に必要な文献資料、映像資料等の購入のための物品費を計上している。
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