研究課題/領域番号 |
24510361
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
川田 進 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (10288756)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東チベット / 中国共産党 / 宗教政策 / 宗教紛争 / 宗教ネットワーク / チベット問題 / 統一戦線活動 / イスラーム |
研究実績の概要 |
2014年度、東チベットにおける宗教状況は比較的穏やかであり、大きな紛争は発生しなかった。東チベットの一部都市では、中国共産党に対する焼身抗議が発生した。一方、ニンマ派を中心に「宗教と和諧」政策への適応が確認された。研究は概ね順調であり、中国共産党の宗教政策とチベット政策の内容を整理し、課題研究の今後の見取り図を作成することができた。宗教紛争と宗教ネットワークの構造を解明する目的で、チベット問題・国際関係・イスラーム関連の図書を購入した。雑誌「中国宗教」等のバックナンバーは、中国政府の輸出入管理規制の問題により入手できなかった。 宗教ネットワークの形成に関する海外調査を2度実施した。2014年8月中国甘粛省瑪曲県、夏河県、碌曲県他、10月中国雲南省香格里拉県、徳欽県他。紅軍長征及びチベット人の共産党地下活動の資料を入手することができた。甘粛省ではニンマ派寺院の活動状況、雲南省では信仰状況の多様化、漢人の山岳信仰、少数民族地区におけるカトリックの動向を調査し、新たな知見を得た。特に瑪曲県における外国人研究者の宗教調査は前例が少なく、四川省の宗教状況と比較しながら、今後考察を進めたい。 論文「毛沢東から胡錦濤時期における中国共産党の宗教政策とチベット政策」を公表し、宗教紛争発生の背景を宗教政策の視点から考察した。9月、日本宗教学会において「チベット仏教の中台交流と中国共産党の宗教政策」と題する口頭報告を行った(同志社大学)。台湾高雄におけるニンマ派の活動内容、白玉寺(四川省白玉県)高僧の台湾弘法活動、白玉寺の化身ラマの動向を報告し、宗教活動及び宗教資金の越境を題材に、中国共産党の統一戦線活動の新展開を分析した。 2015年2月『東チベットの宗教空間』(北海道大学出版会)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年目が終了した時点で、これまでの研究成果をまとめた単著『東チベットの宗教空間』を刊行できたことは大きな成果と言える。現地調査は雲南省と甘粛省にて2回の調査を実施したが、十分な時間を確保することができなかった。雲南省梅里雪山における漢人の宗教行動、徳欽県茨中にてナシ族のカトリック信仰を調査した収穫は大きい。 日本宗教学会での口頭報告は、台湾と東チベットの宗教ネットワーク形成の具体的な事例を提示することができた。質疑応答で適切な批評をいただいた。 ラルン五明仏学院、ヤチェン修行地の資料集作成は作業が進展中であるが、文献資料の入手が十分とは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる4年目は、北京での文献調査、四川省・青海省での宗教紛争調査を実施する予定である。調査予定地はヤチェン修行地、ラルン五明仏学院、ペプン寺、ペユル寺等である。ただし訪問先は、東チベットの政治情勢を見て慎重に判断する。2014年は世界的にイスラムの動きが活発であった。チベットの宗教紛争を考える上で、事情が許せば中国及び周辺国において、チベット難民及びイスラームの動向に関する調査を行う。 中国共産党の宗教政策を俯瞰する上で、雑誌「中国宗教」バックナンバーの入手が不可欠である。今後も入手方法を探りたい。 引き続き、ラルン五明仏学院、ヤチェン修行地、玉樹震災の資料集作成を進める。2015年6月に日中社会学会シンポジウムにて、チベットの宗教空間を台湾の事例と漢人信徒の動向を中心に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査では、四川省チベット地区における調査が未実施であった。文献資料の購入では、新聞「人民日報」、雑誌「中国宗教」の購入目処が立たなかった。研究内容に対する国内研究者はからのレクチャーは、先方の仕事面での都合により、適切な機会を得ることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
東チベットおよび周辺地域における宗教調査を継続する。2014年にイスラームをめぐる紛争が活発化した状況を受け、東チベット、中国新疆ウイグル、東南アジアにおけるイスラーム調査も並行して行う。イスラーム調査の結果から、チベット宗教紛争の問題点を抽出する。ラルン五明仏学院。ヤチェン修行地他の資料集作成を進める。作成に必要な書籍、雑誌バックナンバーの購入方法を探る。中国政府の輸出入管理が厳しくなっているため、古書や雑誌購入先の変更を考慮する。
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