本研究から明らかになったことは、インドネシアにおいて近年活況を呈しているイスラムをシンボルとする新興ビジネスの担い手たちのほとんどが、イスラムに関して特別専門的な知識はもたないごく普通のイスラム教徒だということである。民主化後、それまで抑圧されてきたイスラム主義を掲げる政党や組織の活動が活発になった。それらイスラム主義運動は、厳格なイスラム法解釈を特徴とする思想の影響を受けているが、イスラム新興ビジネスを牽引している企業家たちの思想は、そうしたものとはかなり異なることが明らかになった。厳格なイスラム法解釈に基づく商品・サービスは、インドネシアの多様性に富んだイスラム教徒には受け入れられないのである。本研究では女性イスラム教徒専用サロンとそれ以外の利用者に対する意識調査を行ったが、両者の差異はほとんど見いだせず、地域差、年齢差の方が目立つ結果となった。 とかくステレオタイプな見方をされがちなイスラム社会の内実を理解するためには、本研究のような実証研究がますます重要な意味をもつと考えられる。イスラム新興ビジネスに対する潜在的需要が高いことも意識調査の結果から明らかになっており、イスラムをシンボルとするビジネスは、今後ますますインドネシア社会に普及していくことが予測される。 ビジネスを支える金融面についても、イスラムの教えに基づき、利子の概念を否定したイスラム金融は、制度上の未整備、顧客の認知度の低さ、融資側においても教育・研修の不足などから、当面、取引全体の5%程度を超えて急速に伸びることはなさそうである。だが、教えに忠実でありたいと考えるイスラム教徒は確実に増加しており、潜在的な需要は高く、動向が注目される。 今後、インドネシアのイスラム社会のイスラム化がより深化していくことは十分に考えられ、そうした変化を把握していくためには、今後も継続的に追跡調査をしていく必要がある。
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