本研究では、マレーシアにおける複数の民族集団の「家」の特徴の通時的・多元的な比較研究を行った。「家」を単なる構造物としてとらえるのではなく、家族の成員に限らない様々な人々が多様な人間関係を実践する現場であり、それが内包する人間関係の展開に応じて、「家」自体の形態と構造が変化するものとして分析を行った。なぜなら、「家」においては、容器(建築物としての家屋)とその中身(家財とその配置)、これら二つを構成する力学(そこで実践される人間関係)の三者の相互作用にこそ、各民族集団の特徴が現出しているからである。そして、「家」の特定空間において展開されるさまざまな行為のうち、特に食実践が社会関係のダイナミクスに大きく影響していることが明らかになった。 「家」空間で展開される食実践と社会関係のダイナミクスについては、ワークショップ「食からみる「つながり」の文化人類学的研究」(於・東北大学東北アジア研究センター、平成25年3月24日)において、「家」を現場として行われる食事や饗宴を通じて構築/形成/維持される人間関係の動態について櫻田と三浦が研究報告を行った。さらに、益田もワークショップ「家・空間における食実践に関する文化人類学的研究―社会関係を開閉するという視座から」(於・東北大学東京分室、平成26年10月11日)において、イバン族の家庭内で醸造・消費される醸造酒が人間関係を開閉する事例について報告した。これらの報告を通じて、隣接地域との比較を通じて分析の精緻化を進めた。その結果、「家」空間で展開される「食」と社会関係の動態の議論について、マレーシア一国にとらわれず、より広い(具体的にはカンボジア、ベトナム、インドネシア、韓国、中国、パプアニューギニア諸社会など)地域との通文化的比較考察も可能であることが明らかになった。
|