本研究は1970年代のタイにおいて展開した農民運動の実態を把握することを目的としている。この農民運動については中央レベルの運動、すなわち政府への陳情や政府の対応を引き出すための集合行動については研究がなされているが、農民が自分の地元コミュニティでどのような運動をおこなっていたかについてはほとんど記録がない。そこで本研究では、北部と中部を中心に、地域で活動した農民、支援した学生活動家から聞き取りをおこなうと同時に、当時の新聞(地方紙を含む)を読んで農民運動に関連する記事を集めた。 その結果、北部のある農村で運動をリードした農民から詳しい聞き取りをおこなうことができ、その内容を冊子として印刷・配布することができた(シンチャイ・タマピン『何のために闘うのか』)。この記録により、学生や農民活動家がどのようにして農民運動を広めていったのか、北部の農村で地主に対して農民がどのように連帯し、どのような方法で闘いを挑んだのかを明らかにすることができた。また北部の地方紙についてはチェンマイ大学図書館にマイクロフィルムで所蔵があるものすべてを閲覧した。この地方紙には、チェンマイ、ランプーン、ランパーン県でおきた農民と地主、農民と政府との紛争が記録されており、聞き取りで得られた情報を、日時も含めて確認することができた。タマサート大学に所蔵されている当時の左翼系新聞も閲覧をした。こちらには全国レベルの運動の記録がかなり見られる。すでによく知られたイベントの他に、学生組織の動きについても記録があり、新しい知見が得られた。
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