ナショナルなレベルで政策として進められているケア供給体制の再編過程は、ローカルなレベルでのケア供給体制にどのような再編を誘発しているのか。その結果、ケアと労働をめぐるジェンダー間・内部の分業をどのように変化させているのか。本研究は福島県川俣町を主たる調査フィールドとして、現地調査、史資料分析、大都市圏の保育所との比較調査を重ね、以下の知見を得た。 (1)戦後から高度成長期、さらに2000年代までを射程として、公的保育制度導入以後の同町のケア供給体制の形成と再編過程を検証した。その作業から保育サービス・育児休業・安定的雇用からの排除をともないながらの女性内部でのケアの連鎖現象の傾向が見出された。高齢人口の増大と育児期における通勤距離の限定から、女性労働者全般のケア労働者化、対人サービス労働者化、労働の不安定化という傾向が予見された。 (2)2000年の公立保育所運営費の一般財源化のインパクトは大きかった。財政負担の圧縮はさらなる保育士の人件費圧縮(非正規化)につながり、その合理性を示すものとして、政策形成過程において公立保育所の高コスト言説、地域特性としての「三世代同居」の強調、専門的ケアと家族・ボランティアによるケアを等置する言説が確認された。 (3)震災発生後、利用者の間では公的制度に裏打ちされた保育所が子どもと家族の「日常」を保障する場として再認識された。しかし、2015年度から始まる保育制度改革の影響、委託期間の終了に伴う委託契約及び雇用契約打ち切り、民営化後の運営費の増加傾向等、同町の保育所を含むケア供給体制の安定的維持について不透明な部分を残す。現場で発揮される保育士の職業上の責任感とプライドで補完するには限界があることが示唆された。 (4)保育士の賃金等の労働条件の低下と、有資格の保育士のローロード・キャリア化が顕著になるのは2000年以降であることが見いだされた。
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