研究課題/領域番号 |
24510372
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松川 誠一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20296239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 労働過程論 / フェミニスト経済学 / ケア労働 / 専門職性 |
研究概要 |
2012年度は、ケア職の労働過程を分析するための理論的基盤となる労働過程論に関する批判的サーベイを行ない、ケア職に典型的に現れている相互作用的労働を分析するための理論的枠組みの構築を行うことを目標とした。労働過程論争は、1970年代後半の第1期、80年代の第2期、1990年代以降の第3期に区分される。80年代末に労働過程論争における2つの立場の方法論上・認識論上の違いが明確となり、対立が激しくなっている。その一方のグループ(批判的経営学派CMS)がポスト構造主義の影響下で議論を展開し始め、伝統的なマルクス主義の思考法から距離を置いたことが原因である。CMSは、労働過程論における統制‐抵抗パラダイムを批判し、フーコーの議論をもとに労働者主体の構成の問題に焦点を当てた。本研究では、フェミニスト視角からこれらの議論を再吟味することを試みた。 労働過程論の脱構築的な読解は、統制‐抵抗パラダイムにおける最大の問題点が、資本に包摂される以前から労働者が「構想し実行する」労働=人間主体として存在しているという汎歴史性を根拠として理論が構成されている点にあることを明らかにする。労働過程論の中核概念である労働主体は資本主義以前から存在するのではなく、資本の成立とともに、資本の運動の中から構成された歴史的概念である。商品交換の一般化の言説効果として「構想し実行する」労働主体を生み出したと思われる。 他方、CMSを含め、労働過程論はそれ自体が性差別的である点に無自覚的である。労働概念が自由な精神が物的対象を操作するという対象化作用をその内容としていることから、労働においてはマニュアル労働が規範的地位を占めている。能動的で合理的な労働主体は男性性として構成され、対人的・情動的なケア的活動は非労働として従属化される。資本‐労働関係は、それ自体としてジェンダー化されたものとして生み出されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イギリスにおける労働過程論争が予想以上に大規模で、論点が輻輳しながら展開されていることが調査によって判明し、論点の整理に時間を要することになった。また、これは予想されていたことであるが、ケア労働・感情労働に関するフェミニストの議論と労働過程論とを連携させようという研究がほとんどないため、両者を関係づける理論枠組みの構築にも時間がかかっている。そのため、まずはこの理論的研究に注力することにした。枠組みの構築にある程度の目処が立ったため、その結果に基づいたインタビューガイドの作成を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の理論研究の成果により、労働過程論を対人サービス職に適用する際の問題点が明らかになったので、この理論上の問題点をインタビュー調査によって確認していく作業が必要となる。まずは、統制‐抵抗パラダイムで問題とされてきた、抵抗の主観的経験についてのケア職の語りを収集する。また、感情労働に関して、ケア職の感情経験についての語りを収集し、感情知に枠づけられた語りとそれ以外の語りを類別できるかどうかを確認する。第3に、感情作業の動機づけに関するボルドンの4類型がケア職において適用可能であるのかどうかを確認する。これらの調査を実施することにより、ケア職における専門職性が、ケア職の職業アイデンティティの形成・維持とどのように関係しているのかを明らかにするとともに、専門職意識がケア労働の統制メカニズムとどのように関連しているのかを明らかにすることが、今後の研究の目標となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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