研究課題/領域番号 |
24510374
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
池田 恵子 静岡大学, 教育学部, 教授 (60324323)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 女性に対する暴力 / ジェンダーと開発 / 女性組織 / 裁判外紛争解決手段 / バングラデシュ / NGO |
研究実績の概要 |
本研究は、バングラデシュ農村における女性に対する暴力の動向を、村落レベルにおけるグローバルな課題としてのGADの展開に位置付けて把握することを目的としている。地域社会を分析単位とし、社会組織や規範の変容と関連において女性に対する暴力の動向を理解する。 本年度は、昨年度の調査を継続する形で、女性に対する暴力の課題に取り組むために結成された地方の女性住民組織のネットワーク(ドゥルバールネットワーク、およびGAD Alliance)の協力を得て、現地調査を行った。北部ガイバンダ県ショドル郡にて、ドゥルバールネットワークに加盟する6女性組織すべて、およびGADAllianceの県拠点であるNGOと全国的女性組織(モヒラポリショッド)の県支部に対して、①郡内のGAD政策の動向に位置付けた女性に対する暴力の傾向の変化、②「伝統的な村裁判や仲裁の機能改善」に関する活動、③女性組織の歴史と運営状況、④首都や海外に本部がある団体とのコミュニケーション、④司法・人権保護手続きに関する研修などについて聞き取りした。これらの組織が行う裁判外紛争解決手法を実際に見学し、過去の仲裁記録を収集した。 伝統的な村裁判(シャリーシュ)の裁判者である地域有力者に対する研修に関する情報(対象者、カリキュラム、成果の把握手法など)を収集し、自ら研修に参加した。この研修を受けた裁判者(シャリーシュカル)に対して質問票を用いた調査を行った。また、ガイバンダ県の「女性児童虐待抑制特別法廷」に関与する判事、弁護士、関連NGO職員に同法廷の成果と課題、裁判件数の動向などに関するインタビューを行った。 首都ダカにおいて、上記のような地域で活動する女性組織を支援する大規模NGOから、地域の女性組織の課題について聞き取りをした。また、比較のためにダカに所在する少数の女性組織に対して同様の内容で聴き取り調査を企画した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、調査対象のバングラデシュではゼネストが頻発し、現地調査を開始できなかった。平成26年度は、12月までは政情が安定しており、前年度に作成済であった質問票も用い、平成26年度の計画を含めて、平成25年度に計画していた調査の遅れをほぼ取り戻すことができた。 これまで、本研究の目的に即し、以下の点を解明することができた。①特定の地域を単位として、農村地域へのGADの浸透に位置付けて女性の暴力の変化の動向が把握された。②女性に対する暴力への取り組みの担い手として、従来は注目されていなかった、地域的な女性組織の特徴と、その活動の特徴が理解された。③伝統的な村裁判の改善、女性児童虐待抑制特別法廷など、新たに導入された対策の実態と効果、課題について概要が理解された。④裁判外紛争解決手法の導入、伝統的な村裁判の改善などの女性に対する暴力への介入に、女性が積極的に関与するというこれまでになかった状態が珍しくなくなり、それが地域の有力者層にも受け入れられているなど、社会制度や規範に変化が生じていること。以上のことを明らかにすることができた。 これらのデータの分析と整理を進めているが、ベンガル語による裁判記録などが大量にあるため、その完了までにはまだ時間がかかりそうである。 なお、バングラデシュでは、平成27年1月以降、再度、政治状況が急激に悪化し、交通閉鎖が続いた。地方の農村地域で活動する女性住民組織との比較のために、ダカに所在する女性住民組織へ聴き取り調査を行うため、2月に現地調査を行う予定であったが、これができなくなってしまった。現地の政治状況は4月に入って改善した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、まず、平成26年度に行った調査の資料を整理、分析し、①GADの浸透と女性への暴力の動向の変化、②地域で活動する小規模女性住民組織の特徴、③女性児童虐待抑制特別法廷、④伝統的な村裁判とその担い手の変容、農村の秩序維持機能の変化、⑤バングラデシュの裁判外紛争解決手法について、それぞれ取りまとめ、報告書作成の準備をする。また、学会や研究会で報告し、学術論文として成果を公刊する。 平成26年度に実施できなかった、都市型の女性住民組織に対する現地調査を首都ダカにて行い、その結果も、報告書や成果の公表に反映させる予定である。 最終的には、平成24年度に作成し、順次更新している、「GADと女性に対する暴力」に関する文献データベースを活用し、長期的な開発とジェンダー政策の展開と女性に対する暴力の動向の関係性を明らかにする研究へと発展させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象国バングラデシュでは、政情が不安定な状態が続いていたが、平成27年1月以降、状況が急激に悪化し、交通閉鎖が続いた。当該研究課題は、平成26年12月までに、当初の予定であるところの農村地域で女性に対する暴力に関係する活動を行う女性住民組織に関して情報収集を終了した。しかし、農村地域で活動する女性住民組織の特徴をより深く理解するために、補足調査として、ダカに所在する女性住民組織へ聴き取り調査を行う必要が生じた。そのため、平成27年2月に現地調査を行う予定であったが、これができなくなってしまった。現地の政治状況は4月に入って改善した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年2月に行う予定であった現地調査を8月をめどに行う予定である。都市型の女性住民組織に対する現地調査を首都ダカにて行い、その結果も、報告書や成果の公表に反映させる予定である。
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