研究課題/領域番号 |
24510375
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
新井 美佐子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (20313968)
|
キーワード | フランス / ジェンダー / 対人サービス |
研究概要 |
平成25年度は、前年度に引き続き文献・資料の読み込み、研究成果の一部の論文発表、ならびに次年度実施予定の調査の準備を行った。 上記拙稿*では、高失業率下における雇用創出や、今後深刻化が予想される介護労働力不足の解消への寄与を第一義として2005年に導入されたフランスの対人サービス(Services a la personne)政策が、ジェンダーと大いに関わる現象、問題を伴っていることを既存の文献や資料をもとに指摘した。 具体的には、まずサービスの利用者が、需要度が高く、かつ利用に際して相対的に厚い経済上の優遇措置を受けられる高齢者、ならびに経済力に比較的余裕のある中年女性に多いこと、また彼らの家族形態として、家事労働軽減の要望が強いと考えられる共稼ぎカップル、就労シングルよりも、片稼ぎカップルが多いことが挙げられる。 一方、従事者に関しては、非高学歴や無資格の、一家の稼ぎ手たる中年女性という典型像が現れる(従事者全体における女性割合は92%、平均年齢46歳)。そして、対人サービス職の賃金が、時給換算では最低賃金額を上回っているものの、労働時間が週平均で20時間に満たないため、平均月収が単独で生計を維持しうる額に達していないことを示した。 これらの知見について、詳細や要因を聞き取り調査を通じて明らかにするのが次なる課題である。この調査を2014年8~9月にパリ市で行うために準備を進めている。 *新井美佐子(2014)「フランス『対人サービス』政策に関する検討」『言語文化論集』(名古屋大学国際言語文化研究科)第35巻第2号、pp.3-19。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の次なる課題は、前項に述べたように、既存研究から得られた知見の詳細を現地での調査を通じて明らかにすることである。この調査は、平成25年度に行う予定であったが、主に次の2つの理由により同年度中に実施できなかった。 ・当初アンケート調査を予定していた従事者の属性や労働条件、利用者の属性等に関して、対人サービス局や民間調査機関、組合等による有益な先行調査の結果を予想以上に大量に入手できた。そのため、それらを踏まえて、調査内容を見直す必要が生じた。 ・フランスの対人サービス部門では、従事者の約6割が利用者との個別契約による個人労働者であり、36%が公的もしくは非営利機関の従業員として、残りの約3%が企業の社員として働いている(こうした個人労働者の高比率、企業従事者の低比率は、ヨーロッパ諸国との比較においてフランスの特徴である)。高率を占める個人労働者への聞き取り調査は本研究に不可欠であるが、彼らへのアクセスは、利用者との直接契約によって従事しているため難しく、彼らが多く加入する組合に協力を打診する等したが、充分な調査対象を確保することができなかった。 こうした点を踏まえて、新たな調査計画を作成し、その準備に取り組んだため、研究の進捗が予定よりやや遅れている。ただ、上記1点目で述べたように先行調査から想定以上の量的データが得られたため、それらを今後の調査内容に反映させて、より多くの成果につなげうると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年8~9月にフランス、パリ市およびその近郊で以下の調査を実施する。 対人サービス業の従事者(従業形態別)、その利用者、対人サービス提供機関(非営利機関、企業)を対象に、対人サービス業への従業理由、賃金(料金)の決定要因、利用動機などについてインタビューする。そこから、対人サービス政策とジェンダーとの関わりを明らかにする(労働条件やサービス利用等に関するジェンダー要因を析出する)。その際、とりわけ着目したいのは賃金の決定要因である。個人契約の場合、労働協約の範囲内で利用者(雇用主)とサービス提供者とが個別交渉をして賃金(料金)が決定される。他方、サービス提供機関においても労働協約に則ってそれが決定されることは確かであり、各機関のサイトで料金を知ることもできるが、その具体的な設定要因、方法については把握できていない。個人契約と機関利用との双方において、取得が勧奨されている免許・資格、キャリアや学歴、あるいは他の要素が、料金/賃金にどのように反映されているのか、さらに同部門に関与する様々な労働組合がいかなる影響を及ぼしているのかを捕捉したい。また補足的に、 ・関連組合や対人サービス局の担当者に、本政策の評価や問題点などについて聞き取り調査をする。 ・対人サービス部門においてフランチャイズ化やグループ化を試みている企業の担当者にインタビューし、無償労働の存在や専門性の低さ、労働集約的であることを理由に営利追求が容易ではないと考えられている同部門で、どのような企業経営を行っているのかを把握する。 なお可能であれば、毎年パリで開催されている「対人サービス展」に参加して(2014年12月4~6日)、資料の渉猟や情報収集を行い、同部門の継続的な研究につなげたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」で述べた通り、平成25年度に予定していたフランスでの調査を実施できなかったため、その分の費用を次年度使用とした。具体的な予定使途は次の「使用計画」に示した。 調査日程:2014年8~9月の2週間(具体的には調査対象との調整後に決定)。 助成金使用予定内訳:渡航費(名古屋-フランス・パリ市、エコノミー席利用)約20万円、現地宿泊費 19100円(規定額)×14泊=267400円、日当 6200円(規定額)×13日=80600円、調査関連費(謝金、資料整理バイト代等)8万円、合計635252円。
|