最終年度である2014年度は、関連文献や資料、データの渉猟に加え、パリ市(フランス)内で開催された「対人サービス展」への出席(12月)、ならびに対人サービスを提供する中小零細企業の経営者組合連合(FEDESAP)への聞き取り調査とフランス民主労働総同盟(CFDT)とのメールによる質疑応答(共に3月)によって研究を進め、本研究の主たる課題①対人サービス部門における賃金形成方法、②同部門の整備が及ぼすジェンダーへの影響について、以下の知見を得た。 ①労働条件全般は、全国レベルでの労働協約(本部門では従事形態や職種によって複数存在)に従って決定される。そして賃金は次のように算出される。労使代表が部門内の職業ごとに、「知識」「専門性」「自律度」「職務範囲「問題解決力」という5つの指標についてランク付けし、それぞれポイントを付与する。それらポイントの集計数に応じて、各職業の基礎賃金(時給)が毎年設定される。その基礎賃金に、労働日・時間帯や労働者のキャリア、経済状況等のいわゆる市場的要素が加味され、最終的な賃金額が決まる。本部門は、公的整備を経ても典型的な女性職となっており、職種による高低はあるものの、非専門職では総じて低賃金である。 ②上記のように供給側は90%近くが女性、しかも非高学歴や無資格の、一家の稼ぎ手たる中年女性が多いという特徴を有する。対する需要側は、データによると「共稼ぎカップル」と「就労シングル」が共に1割強に過ぎず、(女性の)就業に伴う家事代行としての利用はそれほど多くないと推測される。この点に関しては、利用者へのより詳細な聞き取りやアンケート調査によって確認する必要がある。 さらに、本部門が、財源の不安定性、サービス提供形態の競合、労働内容の特殊性等に起因する諸問題を抱えており、今後需要の増大は見込まれるものの、その有効化には解決すべき課題が多いことを指摘しうる。
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