研究課題/領域番号 |
24510376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大石 和男 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20335300)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | サブシステンス / 農本主義 / 農村女性 |
研究概要 |
従来の農本主義研究では分析対象が戦前の事例にほぼ限定されており、「戦後農本主義」についても研究グループによる検討が一部始まってはいるものの、いまだ十分な分析フレームを構築するには至っていない。申請者はアグラリアニズムとの比較を念頭におきつつ、農村女性の活動は十分に「戦後農本主義」に相当するとの仮説を抱いており、そのため本年度はこれらの理論構築に研究の力点を置くこととした。 その際に必要となったのは、通史的・相互連関的に事例を眺めることのできる分析概念の設定である。そこで本研究ではアメリカのアグラリアニズムの流れ、およびドイツのM・ミースらが女性による社会運動を分析する際に用いているサブシステンス概念の2点に着目した。とりわけサブシステンスの概念については【農】の領域と親和的であり、先進国・途上国を問わず、農的な世界に身を置いて社会変革を志す人々の思想と実践を分析するのに有効な概念として注目されているのが選択した理由である。そして両者の関連性をもとにすることで「戦後農本主義」論の枠組みを構築できることを明らかにした上で、成果を学術雑誌に投稿した(現在、審査中)。 またフィールドワーク面については、当初計画では全国の6名程度の農村女性の聞き取りを予定していたが、初年度の調査では方向性の検討も目論んでおり、また調査対象である農村女性ネットワークが当該年度中に交流学習集会の開催を決定したこともあり、それに対応する形で調査地の変更を行い、調査を実施しデータを入手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は理論研究の面においてサブシステンスと農本主義との関連性を明らかにする作業を繰り上げて行った結果、両者の関連性をもとにすることで「戦後農本主義」論の枠組みを構築するための道筋が明らかとなり、これらの成果を学会誌(『農村社会研究ジャーナル』)に論文を投稿するところまで到達した。審査結果次第では追加の考察が必要となるものの、ひとまず研究計画で構想した理論構築の前半部分については達成の目処が見えてきたと考えられる。 また農村女性に対するフィールドワークについては、当初は農村女性ネットワークのメンバー6名程度に対する個別ライフヒストリーの聞き取り調査を主要な内容として想定していたが、交流学習集会の開催という事態に対応する必要が生じたために東京及び福井での調査を大幅に増やすこととし、ネットワーク活動の現状および集会参加者の参加動機や意識変容等の観点からデータ収集を行った。そのため当初計画とはやや異なる方向で調査が進んでいるものの、これらの変更は想定内でもあり、研究計画を補完するに足る十分なデータが収集できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の理論面に関しては順調に研究が進んでいるため、今後はサブシステンス概念に基づいた「戦後農本主義」という分析枠組みに沿わせる形で農村女性の諸活動を位置づけていく作業に移行する予定である。具体的には戦後農村女性の関与した諸活動について、たとえば農村改善運動や農産物自給運動、農村女性起業、農村女性ネットワークへの参画などについて史的資料の洗い出しを行うと共に、それらをサブシステンスの観点から把握し、歴史的潮流の明確化および隆盛期の特定という形で整理を行うと同時に、それらの時代背景の把握もあわせて行い、両者の構造的な連関性に関した分析作業を進めていく。 また同時に農村女性がそれらサブシステンスの領域と親和的である構造的な理由について焦点を当てて、農村女性ネットワークの主要構成員に対して、これまでに携わった社会活動やサブシステンス活動、および家庭内外や経営体内外における権限獲得のプロセスを中心に引き続き聞き取り調査を行っていく。その際、農村女性のライフステージがもつ社会活動への影響や、農村女性のもつネットワーク活動その他において必要となる権限の付与に関する地域差、といった観点にも着目を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では農村女性ネットワークの構成メンバーに対するフィールドワーク、および戦後農村女性による【農】を基軸に据えた社会変革に関連した史的資料探索が中心的なデータ収集方法となる。その際、インフォーマントの居住地が国内各地に広範囲に広がっており、メンバーごとの地域活動の展開過程や活動内容が異なっていることから、それらを包括的に把握するために、本年度もある程度まとまった数の実態調査を実施する予定である。したがって支出費用のうち、国内旅費(調査旅費および資料収集旅費)に予算の大半を割くものとする。 なお調査件数については研究計画の通り6件程度の調査を設定しており、またこれに資料収集および研究会等の旅費を見込んでいる。その他の支出としては研究支援費用として聞き取りデータの文字起こし、および研究遂行状必要となる若干の文房具などの物品費を計上している。
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