近年の農村女性によるさまざまな活動は、しばしばエンパワーメントなどの用語と共に説明されてきた。だがその一方で、これらの事例では、<農>のもつ様々な機能と効用を再確認し、その重要性を訴える思想や実践との結合が広範囲にみられるにも関わらず、両者の結びつきは従来あまり目をむけられてこなかった。本研究では、1990年代に誕生した農村女性ネットワーク(「田舎のヒロイン」)に着目し、この事例を農業本位の思想(=農本的思想)を体現した活動の一種として位置づけると共に、従来の農村女性に関する研究を一歩押し進め、農業本位の思想にみられる歴史的動態や各種要素の発現形態を踏まえつつ、それらが農村女性をとりまく環境としてどのように作用してきたのか、および、農村女性の活動がどのような時代的特性をもった変革思想としてそこに位置づけられるのかについて、このネットワークへの参加者を事例としながら、思想分析の観点から明らかにすることを目的とした。 そこで問題となるのが、農業本位の思想には、近現代を通史的に把握できる分析フレームが十分に整備されていない点である。そこで実体分析の作業として、<自己および社会の変革方向>および<変革に向けた動機の形成過程>という分析視角を設定し、これらの要素が農村女性の諸活動とどのような関係を形成しているのかについて、その構造を明らかにすることを目的として分析を行った。その結果、インフォーマント各々の動機の形成過程を解明できたと同時に、変革の方向性として3点のタイプ(「地縁集団型」「任意集団型」「ドメスティック型」が見いだせることを明らかにした。 分析結果は「『農村女性ネットワーク』にみる変革の志向性とその形成過程 -『田舎のヒロインわくわくネットワーク』を事例に-」と題した学術論文として『生物資源経済研究』に掲載された。
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