戦時下、新聞、雑誌、ラジオ、映画などの大衆メディアは、各国の戦争の大義を国民に確信させ、動員するうえで大きな役割を果たした。またこれらは、各国の民族政策やジェンダー秩序、そして「国民」形成を正当化するうえで大きな役割を果たしてきた。本研究グループは、主に第二次世界大戦下、イギリス・アメリカ・中国・ドイツ・日本において刊行された女性雑誌・一般大衆誌に掲載された記事、表紙・グラビア写真や諷刺画などを一次資料とし、そのジェンダー・エスニシティ表象を分析し、国際比較を行ってきた。 H26年度は、時系列を1950年代まで伸ばし、戦時下に「国民」として動員された女性やマイノリティについて、戦後、ジェンダーや人種・エスニシティの平等がすすんだのか、また、戦時中の女性・民族政策が戦後のジェンダー秩序や「国民」形成にどのような影響を及ぼしたのかをメディア表象分析を元に検討した。ほとんどのメディア表象では、戦時中、積極的に労働力として動員された女性たちの「女らしさ」への回帰が顕著である。アメリカの『ライフ』誌では、利便化された家事用品を駆使するアメリカ人主婦の他国の女性たちに対する優位性を強調することで、バックラッシュを曖昧にするような表象も見られた。 H26年度、特に着目したのは、広島・長崎への原爆投下と冷戦下における核開発競争、そして核の「平和利用」におけるジェンダー表象分析である。これに関しては一般公開のシンポジウム「Remapping Hiroshima: 「ヒロシマ」を(再)マッピングする――核時代の到来・起点としての「ヒロシマ」――」(2015年3月15日 於 広島市まちづくり市民交流プラザ)を開催し、日本、アメリカ、イギリスの表象の比較分析について報告した。また、ヒロシマ、ナガサキ・アーカイブ主宰の渡邉英徳氏を招聘し、「核」の表象と記憶について現在に至る視野で討論することができた。
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