最終年度まで現地調査を延期していた旧北東州は、本年4月2日にガリッサ郡で起きたアル・シャバブによる大学襲撃事件でも明らかなように、非ムスリムであり、アメリカに味方していると見做されている日本人が調査活動ができる場所ではもはやなくなってしまった。10年以上にわたり現地で培った信頼関係を今後生かすことができないのは、とても残念なことである。 最終年度では、8月にルワンダで調査を行い、下院の女性議員比率が世界一となった理由として、現政権の担い手がクオータ制を早くに導入したウガンダで訓練を受けていたことや、ジェノサイド後に女性が共同体再建を担わざるを得なかった事情に加えて、植民地化以前のルワンダ王国で女性の果たした政治的役割が大きかったことが影響していることを現地の歴史家にインタビューすることによって明らかにできた。女性の役割を認めていた伝統的な制度は、宗主国ベルギーと教会によって解体されている。 本研究のそもそもの目的は、ケニアで最も貧しい北東州(申請当時。現在のガリッサ郡、マンデラ郡など)において、女性の地位向上に関わる政策決定過程に、伝統的指導者がどのように影響を与えてきたかを明らかにすることであった。地元NGOの数十年の努力により、旧北東州ではFGMに反対する宗教指導者があらわれるなど、変化はみられるが、同じ牧畜民同士を比較しても、ルワンダとガリッサでは女性の地位について、植民地化以前から大きな違いが存在している。 成果報告としては、ルワンダでの調査は、10月の日本政治学会「ジェンダーの政治学と政治学のジェンダー性」分科会において報告を行った。さらに、これまでのケニアの北東部での調査、ルワンダでの調査、ボスニアでの調査を踏まえて、3月に『貧困,紛争,ジェンダー』を出版した。
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