今年度に実施した調査・研究は以下のとおりである。①日本:1920年代に新中間層を主な読者とした女性雑誌を資料として、避妊言説と性愛言説の構成とロジックの考察を行った。②朝鮮:植民地朝鮮期におけるソウルの遊郭に関する文献調査を実施した。③台湾:日本統治期に形成された遊郭地域のフィールドワークと文献調査を行った。④中国(満州国):長春と哈爾浜(ハルビン)における日本式遊郭に関する資料調査とフィールドワークを実施した。 以上の研究に基づき、日本、朝鮮、台湾、満洲を家族内部/外部のセクシュアリティという観点から比較した結果、以下のことが明らかになった。外地(朝鮮、台湾、満洲)には、日本(内地)にはない「民族」という観点が導入される。二つの民族、もしくは多民族が混交する外地(朝鮮、台湾、満洲)のセクシュアリティのあり方は複雑であるが、日本(内地)では見えてこない階層性・差別性の問題に外地(朝鮮、台湾、満洲)は直面させざるをえなかった。日本近代は、近代家族の規範が成立する過程であり、同時に、近代公娼制度が成立する過程でであった。家族外部のセクシュアリティは排除されるのではなく、近代公娼制度のもと近代の秩序に組み込まれる。国家の基礎単位となる近代家族の成立と、家族外部のセクシュアリティは矛盾するものではなく、いずれも近代化にとって必要とされた。しかし、日本近代は日本(内地)においてのみ完結したものではなく、植民地政策において、近代家族制度と公娼制度を植民地(外地)へと移植し、民族ヒエラルヒーを利用することにより、日本(内地)における近代家族と近代的セクシュアリティ、近代的ジェンダーのあり方をより強固な社会システムとして確立したと考えられる。
|