最終年度の本研究は、次の2段階で行った。
1.現代フランス思想における共同体の問題系の追究の展開を、現代ドイツ哲学との関係にも着目しながら、公共性の思考のなかに組み込んで整理した。(1)バタイユ、ブランショ、レヴィナス、デリダ、J=L・ナンシーなどから、他者の優位・来るべき民主主義のアポリア・合一と分割という問題系を浮かび上がらた。(2)前年度に集約したドイツ哲学の、公共性の思考における統一性と複数性のアポリアという観点と対比し、類似の構造を見出した。そのさい、フランスの思想家たちがハイデガー、アドルノ、アーレント、ハーバーマスと直接的および間接的に取り組んでいる姿の内実をも明らかにした。以上2点によって、公共性に関する共時的・構造的思考の準備を整えた。
2.初年度以来の研究を総括して、現代ドイツ哲学と現代フランス思想の歴史的研究に裏打ちされた公共性(公共空間)の思考を構造的に行い、次の点を明らかにした。(1)公共性は、分割(自他のずれ)を、しかも他者の優位を要件とするがゆえに、全体性ないし合一から明確に区別される。(2)それは、絆の現前しない共同体というほとんど不可能な可能性であって、その根底には、他者が他者であり自己が自己であるようにする倫理がある。(3)この意味での公共性(公共空間)は、光あふれる未来の世でもなければ、欠損だらけのこの世界そのままでもなく、私たちの世界とほんの少し異なる平和の地としてはるかに望まれ、いまここに到来しつつある。
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