平成25年度は、前年度の研究成果を学会で発表(平成25年10月の社会思想史学会での自由論題報告「フリードリヒ・ヤコービの自由主義」)する一方で、研究計画にしたがってヤコービの二つの哲学小説『アルヴィル』と『ヴォルデマール』の内容を検討した。 1775年と1777年に発表された両著作が、それぞれ1792年と1796年に大幅に改訂されて再刊されるまでに、ヤコービ自身の立場がどのように変化したのかを、諸版を対照しながら丹念に跡づけた。その結果、初版が疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)文学(とりわけゲーテ)の影響下で書かれたのにたいして、汎神論論争を経て約20年後に刊行された改訂版には、彼のその後の哲学的発展(スピノザならびにカントとの対決、それと関連したプラトン受容など)が色濃く反映されていることが分かった。この研究成果は、当初の計画通り平成26年6月下旬の日本哲学会大会(「哲学小説の誕生――フリードリヒ・ヤコービの『アルヴィル』『ヴォルデマール』を読む」という論題でエントリー済)や10月上旬の日本倫理学会で発表する予定である。 また文献講読と並行して、文献調査・収集も精力的に行った。とりわけヤコービの蔵書の一部が所蔵されているマルティン・ルター大学ハレ=ヴィッテンベルクの図書館において、ヤコービと彼に関連する思想的潮流(啓蒙主義、ドイツ観念論ならびに初期ロマン主義)に関する文献を調査・収集した。
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