研究課題/領域番号 |
24520004
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
戸島 貴代志 東北大学, 文学研究科, 教授 (90270256)
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研究分担者 |
阿部 恒之 東北大学, 文学研究科, 教授 (60419223)
佐倉 由泰 東北大学, 文学研究科, 教授 (70215680)
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キーワード | 言葉 / 時間性 / 機 / 対話 / 垂直性 / 身体性 |
研究概要 |
禅語としての「挨拶」にも見られるように、〈己のいま・ここ〉という特殊な時間性(や所在性)を重んじる禅の領域では、時間的要素を重んじる人―言葉の緊張関係の典型があの臨済禅の「喝」 ― 刹那の一瞬に解き放たれる語(喝)による己の真の現在への復帰 ― における現在的時間性や緊張感に見出せた。「問答」という対話形式がこの臨済禅で重要視されるのも、もとはといえば己の現在へと立ち返るべく言葉に最大限の負荷をかけるためだったともいえるだろう。さらに遡って考えるなら、はじめから言葉を大きく使う密教思想にあっては、みずからの言葉には常に最大限の負荷がかかっており、そのことによって自分自身の存在にも常に最大限の負荷がかかっている。はじめからいわばより大きな言葉の重力場に住み続けることによって、日頃から知らぬうちにあの〈筋力〉を鍛えることになっている、ということである。 すでに「ハルモニアー」という概念を通じてしられていることであるが、ギリシアの初期哲学が周知のごとくその後にソクラテス―プラトンによる対話形式の言語形態へと移ったのも、次第に薄れ行く言葉における実質や緊張感の維持・奪回という点では同種の背景的事情があったのかもしれない。とくに、言葉からこうした時間的緊張感 ― 或る種の当事者感や臨場感 ― を抜き取るかのように働く現代のネット社会やサイバー空間が、同時に、失われ行くその時間的緊張感をむしろみずから取り戻さんとするかのような仕組み(チャット、ツイッター、ライン等)によって拡大して行く様は興味深い。 以上の点で、本年度の研究は「言葉における機」という時間的要素をさらに宗教的次元にまで拡大解釈しえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の「機」の発動理由を今年度は大きく宗教の次元にまで拡大できたことで、「垂直性」から「機」へとつながってきた我々の対話研究に、これまでにも増して新たな視野が開けたように思われる。その視野とは、「機」の宗教性が禅思想に、また「機」の身体性が密教思想にそれぞれ見て取ることができたことに表れている。また心理学ポストからの寄与も、当初の予定に加えて、「復興の狼煙ポスター」に基づく「顔」の研究という視座が加わり、これからの研究課題におおきな弾みがついた。文学ポストからの寄与では、「顔」のなかに過去、現在、未来の時間性を読み取ることのできる中世日本文学のテクスト上の視点が加わり、この点でも予定の研究範囲を生産的な方向へと向けて拡大することができた。
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今後の研究の推進方策 |
「対話の時間性」が宗教の次元にまで拡大できたこれまでの流れを、今後はさらに身体的な要素を加味して、世界や身体感覚の秘める隠れたポテンシャルにつなげて解明してゆきたい。心理学ポストにおける「顔」の研究が、我々の研究テーマである「機」と深く結び付くことが見えてきたので、この方向へも研究の注意を注ぎたい。また、そのためには、日本文学研究からの言語的知見と、心理学研究からの感情についての科学的知見とが、これまでよりも一層融和して協働しなければならないと考える。したがって、日本文学ポストからは中世日本語の時間性格をより広範に研究・提供してもらいつつ、心理学ポストからは「顔」および感情の時間的特徴をより個別事例に即して研究・提供してもらわねばならないと考える。哲学ポストにおいては、これまでの宗教的次元への着眼を、今後も一層深め、上記の二つのポストからの寄与を最大限に活用していきたい。
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